#04 瞳の、1秒先


「最近の悟空、綺麗になったと思いませんか?」
(何言ってんだこいつ)
「そうそう、な〜んかこう、色気づいた?みたいな」
(てめえの目は節穴か、河童)
「あの大食い猿の何処を見たら、そんな寝言言えんだ」
「何処って…ねぇ」
「ああ、だからなんだその…雰囲気?だよ」
(全くもって)
「話にならねえな」

 不意に昼間の会話が蘇った。目の前には噂の猿。
(綺麗になりましたよ、悟空は)
 そりゃ、成長くらいはすんだろ。年齢だけは、世間で言うところのいい大人だ。
 相変わらずの大喰らいだが、数年前に旅を終えてからは、とり合えず寺の奴らとも上手く付き合っている。
 だが、どう見たってあれは…
 そう、あれは…
「――んぞ、三蔵…三蔵ってば!」
「あ?」
「どうしたんだよ、ぼーっとして」
「ああ?」
「ホラ、灰落ちるよ」
 指に挟んだ煙草は一度吸ったきり。それを灰皿に押し付け、視線を感じて顔を向ければ、
「何だよ」
「ん?三蔵がぼーっとするの珍しいなあと思って」
 そう言って笑った顔から、なぜか目を逸らせなくなった。こいつはこんなに穏やかに笑う奴だったろうか。
(なんか、色気が出てきたよな)
 頭を回るのは悟浄の言葉。
「三蔵?ホントにどうしたんだ」
 黙りこんだ俺に、笑顔が消えた悟空。覗き込んだ金瞳に吸い込まれそうで…
「くそっ」
「え?さん―――…さん、ぞ」
 引き寄せて、噛み付くような口付けをした。
 驚いて逃げようとするそれを追いかけて、捕まえて、絡めとって。息つくヒマなんか与えねぇ。
 悟空の余裕がなくなるまで、俺が余裕を取り戻すまで。
「ん…っ――…ぁふ」
「悟空…」
 口唇を触れ合わせたままその名を囁いて、
「目ぇ開けろ…悟空」
「…んぁ」
 そして、ゆっくりと花開く金。
(その瞳が映すのは俺だけだ)
「さん、ぞ…」
 蕩けるような蜂蜜色のその奥に俺だけを映して、悟空が艶やかに笑った。
(綺麗になりましたよ…)
 また昼間の会話を思い出す。

―――手前らに言われなくたって…そんな事、この俺が一番良く解ってんだよ




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