87) 記憶 

 悟浄が戻ってくると、部屋には八戒一人が、もとい八戒とジープの一人と一匹しか居なく、その彼は新聞を広げていた。
「なに、お前一人なの?」
「ええ、三蔵と悟空は散歩に行きましたよ」
「へえ、珍しいこともあるもんだな」
 あの三蔵が、散歩に付き合うなんて。 と、悟浄は笑みを浮かべながら、煙草を咥えた。
「久しぶりですからね、宿に泊まるのは」
 八戒の少し的外れな返答も、悟浄には真意が伝わる。
 散歩だろうが何だろうが、とにかく二人っきりになれればいいのだ。
「で、お前は何をそんなに夢中になって読んでるんだ」
「ああ、これですか」
 部屋で新聞を広げるといえば三蔵だが、八戒も全く読まないわけではない。
「ほんの暇つぶしだったんですが、ちょっと面白い記事があったもので」
「面白い記事?」
「ええ」 そして、話を続けた。
「人の脳は、大切な事を一度には4つしか記憶できないそうなんですよ」
 言われて、悟浄が首をひねる。
「例えばですね。 この荷物は忘れないでくださいね。 と言った後に、そうそう、あと コレとコレとコレとコレも。 と4つ言うと、ほとんど人が最初に言われた荷物を忘れる。 という結果が出るんだそうですよ」
「ふ〜ん。 4つねえ……」
 あまりピンと来ないのか、悟浄の反応は薄いものだが、八戒もそのあたりは分かっているので、ただ頷いて笑った。
「けど、4つってのはアレだな」
「何ですか」
 何を思いついたのか、悟浄は煙草を咥えながら口の端を上げた。
「猿の場合だと、「喰う」「寝る」「遊ぶ」に「三蔵」だな」
 自信たっぷりの悟浄に、八戒は眉尻を下げて肩をすくめた。


「ただいま」
 静かだった部屋に、元気な声が戻ってくる。
「おかえりなさい。 散歩は楽しかったですか」
 八戒は新聞を畳んで、二人を迎え、
「うん! な、三蔵」
「疲れただけだ」
「何だよ、そればっかり」
 むうっと頬をふくらます悟空に、
「お茶でも入れましょうね」
 と、立ち上がった。
「なあなあ三蔵、今日の夕飯さあ肉にしよう。 肉喰いたい。 なあ三蔵いいだろ」
「っせえな。 勝手にしやがれ」
「わーい、三蔵大好き」


 抱き付く悟空に邪魔だと言いながら、引き剥がさない三蔵を眺めながら、
『奴の場合は、「酒」「煙草」「経文」に「小猿」だな』
 と、思った悟浄は、命が惜しいのでもちろん声にはしなかった。

おわっとけ


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朝の情報番組で、「人はなぜ傘を忘れるのか?」という、実験をしていたので、ネタをいただきました(笑)
花淋拝

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