86) 良薬 

 普段、体調を崩す事など滅多にない悟空が、今年は風邪をこじらせて五日寝込んだ。
 熱が落ち着いて、ベッドの上に起き上がれるようになると、ようやく食べ物を口にするようになった。
「さんぞ……」
「なんか飲むか」
「ん……」
 頷く悟空は、ぼんやりと三蔵の顔を見上げて少しだけ、表情を崩した。
「待ってろ」
 胡桃色の頭をひと撫でして、三蔵が寝室を出て行く。 悟空はベッドの脇にうずくまる二匹の犬に視線を落とした。
「琥珀、淡雪」
 細い声で呼ぶと、二匹が尻尾を振って鼻を鳴らした。
「ごめんな、お前たちにも心配掛けて」
 言えば二匹は、耳を揺らしてクゥと鳴いた。 気にするなとでも言うように。
「早く元気になるからな」
 そう言って悟空は二匹の頭を撫でた。


「熱いからな、気をつけろ」
 暫くして戻ってきた三蔵は、湯気の立ったマグカップを悟空に渡し、自分はベッドのすみに腰を下ろした。
「美味しい」
 口に広がる柔らかい甘みに悟空の顔が綻ぶ。
「これ、マシュマロ?」
 ココアの上にふわふわと浮かぶ白い物体をスプーンでつつくと、三蔵を見上げた。
「毎年、お前に貰ってるからな」
 少しずれた答えに悟空が首を傾げる。 それから、何かに気付いてはっきりと幸せそうな笑顔を浮かべた。
「バレンタイン……三蔵に先越されちゃった」
 俺だってちゃんと用意してるんだよ。 と続けた悟空の頭を、くしゃくしゃと撫でて、
「治ってからな」
 金鈷から覗く額にそっと唇を押し付けた。
「ん……ありがと、三蔵。 大好きだよ」
「ああ、分かってる。 ほらもう少し、横になってろ」
 その言葉に素直に頷いて、悟空は三蔵を見上げた。
「来月、俺がお返しするからな」
 その声に、いつもの元気さが戻ってきたのを感じて、三蔵は瞳を細めると、
「楽しみにしてる」
 丸い頬に一つ、キスを贈った。
おわっとけ


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一度は書いてみたかった、三蔵サマから悟空へのバレンタイン。
マシュマロ入りのココアは花淋の好物です(笑)
花淋拝

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