85) 花冠 

 三蔵が居ない―――……
 今日は、特別な日なのに。 三蔵がくれた、俺だけの日なのに。
「でも……しょうがない、三蔵は仕事なんだから」
 数日前からすごく不機嫌だったのは、「この日」を三蔵も普段よりちょっとだけ、違うと思ってくれているから。
 それが解ったから、俺も「いってらっしゃい」って言えたんだ。
 本当は寂しかったけど。

 空を見上げて、あのお日様がどのくらい降りてくれば、帰ってきてくれるかなって考えた。
「さんぞ……」 大好きな名前を無意識に呼んだ。 その時だった―――
「何、情けない声出してんだ」
 聞きなれた声と頭の上にふわりと香る匂いに振り返って、驚いて。 それでも何とか声を振り絞って、
「三蔵……仕事は」 三蔵の言うとおり、それは本当に情けない声だったけれど。
「終わった―――。 今日は一緒に居る約束だっただろ」
 そう言って、三蔵の手が俺の肩を引き寄せる。嗅ぎなれた煙草の匂いに、鼻の奥がつんと熱くなった。
「うん……おかえり、三蔵」
 震える声で告げてから、頭に手を伸ばす。 色とりどりの花で編まれた花の冠。
「三蔵……」
「誕生日だからな」
 三蔵の顔も、花冠もぼやけていく。
「ありがと、三蔵―――……帰ってきてくれて、ありがと」
 三蔵の手が流れる涙を優しく拭ってくれる。
「バカ猿。 俺の帰る場所は、いつだってここだ」
「うん……」
 特別な―――三蔵が俺にくれた「俺の誕生日」は、やっぱり一番幸せな日。

「帰るぞ」 抱き上げられると、目の前に三蔵の綺麗な顔。
「三蔵……大好きだよ。 三蔵が世界中の誰よりも、大好き」
 笑っていった俺の言葉に、その菫色の瞳がすっと細くなる。
「当たり前だ。 俺の代わりなんぞ、他に居る訳がねえ」
 それがあんまり三蔵らしくて、俺はその首にかじりついて、泣きながら笑った。


おわっとけ


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まだ、旅に出る前の「トクベツな日」
花淋拝

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