84) 逆転 

 さわさわと風が木の葉を揺らしている。
 今日は天気が良いから、あそこで本を読もう。
 目覚めて最初に思った事を、俺は今、実践中。
 太い木の幹に寄りかかって、広げたページに視線を落とす。時々、小鳥の声。ああ、平和だなぁ。
 きっと時間がゆっくり流れてるんだ。なんて、以前の俺なら考えもしなかった事を頭に浮かべて、ちょっと笑った。ら、
「ニやけ面」
 突然降ってきた声に、弾かれたように上がった顔の先、腕を組んで口の端を上げて三蔵が立っていた。
「三蔵…今日、早い」
 いつも、夕陽が沈む前に仕事が終る事なんてないのに。
 そんな事を思っていれば、
「たまたまだ」
 そう言って三蔵は、俺の隣にどかりと腰を下ろした。
 で、俺はピンと来ちゃった訳。
『自主休業だな』
 あえて口にはしなかった。だって、最近の忙しさを知っていたから。少しは休まないと、三蔵だって壊れちゃう。
 でもこれは、三蔵にはナイショ。
 俺はふふっと笑って、また本に目を落とした。
 三蔵は黙って隣に座ったまま。

 それから、
「おい」
「何」
「……」
「わーっ!何すんだよ、三蔵!!」
 いきなり読んでいた本を取り上げられて、俺は大声を上げた。
「うるせー!俺が居んのに、本なんか読んでる、てめぇが悪い」
 三蔵の言葉に、ぴたりと身体が止まった。
「さんぞ?」
「ふん…」
 ああ、もう、どうしよう。ほっぺたが緩んじゃうような事言わないでよ。
「三蔵…ごめん、三蔵」
 俺はヒザ立ちになって、三蔵の首にゆっくりと腕を絡めた。
 大好きな金糸の髪にキスを贈って、
「大好きだよ」
 と、呟く。そうすれば、
「ああ」
 三蔵の返事は俺にしか聞こえない声で。そして、
「…俺もだ」
 滅多に聞けないその告白に、俺はくふんと笑みを零した。

 旅が終って、三蔵はちょっとだけ甘えんぼになったと感じるのは、俺がそれだけ成長したって思っていいのかな。
 まだ、三蔵には聞けないけどね。



おわっとけ


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旧ブログの小話を拾ってみました。
人はそれを使い回しと言います…
でも、個人的に好きな話の一つです。
花淋拝

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