81) 長閑 

――――ゴッ!
「あ゛っ―――ぃ痛う〜」
「あ?何してんだ」
 盛大な音と呻き声に悟浄が隣を向くと、悟空が頭を抱えていた。
「お〜い、大丈夫かぁ」
 どうやら舟を漕いでいて、頭をしこたまぶつけたらしい悟空は、涙目になりながら「大丈夫」と答えたが、ぶつけたところを擦りながら生あくびをかみ殺した。

 それからまた、暫くして。
「おおっと」
 再び舟を漕ぎ出した悟空の二度目の激突を寸でのところで防いだ悟浄は、ため息を一つ吐いて助手席に向かって声をかけた。
「三蔵、席変われ」
「寝言は寝て言え河童」
 返ってきたのは予想通りの返事。だが、悟浄も負けてはいない。
「寝てんのは猿の方だ」
「二人とも…」
 噛み付き合い目前の会話に、八戒は静かに車を停めた。
「お前が後ろに来なきゃ、猿の頭の形が変わるだけだぜ」
 その悟浄の強気な発言に、珍しく八戒は口を挟まず傍観者に回った。
「ま、俺様が肩を貸してやってもいいけど、よだれで汚されんのは御免だからな」
「貴様…」
「ゴチャゴチャ言ってねえで、変われよ三蔵」
 その一言に三蔵は舌打ちを一つ返して、けれど重い腰を上げた。

「車、出しますよ」
 八戒の合図と共にゆっくりと動き出すジープ。その時、悟空の瞳が僅かに開いて、
「さん、ぞ?」 吐息のような声が漏れる。
「いいから寝てろ」
 三蔵の言葉に、小さく笑って身体が傾ぐ。その頭を静かに膝の上に下ろして、三蔵は胡桃色の髪へ指を滑らせた。
 悟空を見下ろす三蔵の眼差しが、以前よりも尚、深い愛情に満ちているのをミラー越しにこっそりと認めて、前の二人は同時に無言の笑みを交わした。


おわっとけ


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悟浄とのやり取りも、悟空に向ける愛情も、ずーっと変わらない三蔵の日常。
実は三蔵が一番、そんな日常を大切にしてたりして…と思うこの頃。
花淋拝

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