80) 挨拶 

 浴室から出てくると、先ほどまでの濃密な空気が幾分か和らいでいた。
 仄暗いオレンジ色のナイトランプが、ぼんやりと枕元を照らし、その中で一段濃い蜂蜜色の瞳が三蔵を見上げていた。
「起きたのか」
「ん…」
 安物のベッドがキシッと軋んだ音を立てて、三蔵の体重を受け止めた。
「寝ろ、明日も早いぞ」
 微かに湿り気が残る胡桃色の髪を撫でてやると、悟空はふわりと笑って、
「三蔵…おやすみ」
 ちゃんと言いたかったんだ。と、恥ずかしそうに頬を染めた。

「いつも言ってる事だろ」
 言いながら、三蔵が滑り込むように悟空の横へ身体を横たえる。
「そうだけど…でも」
 言いよどんだ悟空を無言で三蔵が促す。
「おやすみ。も、おはよう。も…一人じゃ言えないだろ。だから、三蔵にそういう事言えるの俺すごく嬉しいんだ」
 悟空のその告白に、三蔵は微かに口の端を上げて囁く。
「なら…いつでも俺に言えるようにしておけよ」
 その言葉を暫し考えて、やがて悟空の顔が花が咲くように綻ぶ。

 いつでも言えるようにしておけ。とは、いつも傍に居ろ。と言うこと。
 光が降り注ぐ朝も、月が輝く夜も、片時も離れずに――――

「うん三蔵…明日の朝も、夜も、次の朝も、ずっとずっと。俺、三蔵に言うよ」
 そう言って擦り寄ってくるその身を抱きしめて、三蔵はそっと瞼に口付けを落とした。
「寝るぞ」
「うん…おやすみ三蔵」
「ああ」
 笑った金瞳がゆっくりと閉じて、呼吸が安らかな寝息に変わる。
 寝顔を眺めながら、悟空の言葉を思い出す。
(おはようとおやすみを、三蔵に言えるのがすごく嬉しい)
 もう――― 一人ではないから。

 きっと明日の朝、目が覚めて三蔵が最初に見るのは、輝くような悟空の笑顔と、
「おはよう、三蔵」
 という言葉。
 ありふれた挨拶が、きっと少しだけくすぐったく感じるはずだ。
 だから――――

 腕の中で眠る悟空の耳元に口唇を寄せた三蔵の口元が小さく動く。
 夢の中にいるはずの悟空が、はんなりと笑ったのを見て、三蔵もまた目を閉じた。

―――おやすみ…


おわっとけ


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ハピバ悟空!です
花淋拝

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