〜プロローグ〜

 西への旅が終わって、三蔵は新しい寺を造った。本堂と愁由と怜玄と三人の坊さんの住む僧房だけの小さな寺。三蔵と俺は本堂の奥にある庵で、二人だけの生活を始めた。
 三蔵の寺は山門から本堂に向かう参道の両側にたくさんの桜が立ち並んで、春は本当に綺麗なんだ。
 俺たちが暮らす奥向(おくむき)の庭にも大きな桜の木があって、俺は暮らすその家を「桜庵」と名付けた。
「猿にしちゃ、気が利いてんな」
 なんて三蔵は言ってるけど、実は三蔵だってその名前が結構気に入ってるんだって、俺知ってるんだぞ。
 なるべくみんなの世話にならないように、八戒に教わって愁由にちょっとだけ手伝ってもらって、毎日の食事は俺が作ってるんだ。三蔵は文句も言わずに喰ってくれる。たまに変な顔をする時があるけどね…
 毎日が幸せで楽しくて、大好きな三蔵とたくさんの花に囲まれた俺の新しい生活。
「三蔵見て!蕾がたくさん付いてる」
「喰うなよ」
「喰わないよ!」
 交わす言葉はずっと変わらない。俺の気持ちだって、変わるどころかどんどん大きくなってる。
 そしてもう一つ、変わらないもの。それは―――
「三蔵、俺ね三蔵が大好きだよ」
「…――知ってる」
 そう言って、俺を抱きしめてくれる、三蔵の腕の暖かさ。

#01 
 
 まだ…あと少し―――

「今年はもう満開だね」
「一気に暖かくなったからな」
 桜並木を二人、のんびりとゆっくりと歩く。穏やかな春の一日。
 旅が終わって、二人だけで始まった生活は毎日が新しい発見で、悟空が笑えば三蔵もつられるように笑った。
 桜木立の間から差し込む陽光が、三蔵の金糸に光を振りまき、緩やかな風が悟空の伸びた後ろ髪を撫でていった。
「なぁ、三蔵…こいつはいつ咲くのかな」
 悟空が見上げた先には桜の大樹。けれど、その蕾は固く結ばれたまま。
「古木だからな」
「うん…」
 心配そうに幹に触れる悟空の横で、しかし三蔵には解っていた。

 桜は、待っているのだ―――
 特別な一日のために。その日に花を贈るために。
(それほど大切か…こいつが)
 三蔵の声なき呟きに、応だと言うように、花も葉もない枝がざわんと揺れた。

#02

 大地の化身。大地に愛されし御子―――

 その通り名は買いかぶりすぎだ。と、人には言うけれど、こんな時はそれがもっとも相応しいと、三蔵は思う。
 目の前の悟空はホース片手に、広い花壇を行ったり来たり。
 共に暮らすこの家は、一年を通していく種もの花が咲く。
 春も夏も、秋も冬も…

 濡れ縁の柱に身を預け、三蔵は悟空の笑顔を見つめていた。
 旅に出る前。寺院に居た頃から、花は悟空の友達だった。
 赤、白、黄、オレンジ、そして紫。
 その時、ふと気づいた事があって、三蔵は悟空を呼んだ。
「おい」
「何?三蔵」
 駆け寄って、小首を傾げる仕草は、まるで歳を感じない。それに少しだけ苦く笑って、
「何で、紫の花が無い」
 そう問えば、数秒の間をおいて、ポンと悟空の頬が火を噴いた。
「や、それは…ねぇ」
「何でだ」
 逃げ腰の悟空を眼力で押さえ込み詰め寄った三蔵。が、次の瞬間、何ともいえない顔をする羽目になった。

―――だって…三蔵の瞳より綺麗な紫なんて…無いから

#03

 こんなハズじゃなかった…

 三蔵とケンカをした。仕事、仕事でちっとも休めなくて、二人で食事とか会話とかそんな時間も減って、何より三蔵の身体かどうかなってしまうんじゃないかと心配だった。それなのに、
「三蔵のバカ…俺の気持ち、ちっとも分かってくれない」
 横暴で、エラそーで、すぐ怒るしハリセン出すし、人の話聞かねーし…煙草は吸い過ぎるし―――でも、
「煙草の匂い…安心、するんだよな」
 まだ、一人の夜が怖かった頃、雪の外に出られなかった時、いつも隣に居てくれた。一人ぼっちじゃないと教えてくれた匂い。
「俺…今のほうがワガママかも」
 何があったって今はずっと一緒なのだと、俯いていた顔を上げ、悟空は春の花の香りを胸いっぱいに吸い込んで、踵を返した。
 控えめなノックの後、静かに扉が開いて悟空が入ってきたのを、三蔵はちらりと視界の端に捕らえた。
「お茶…」
 その一言と机に置かれたティーカップ。独特な香りに、
「ハーブか」
 と、問えば。
「カモミール…リラックスしたい時に飲むといいんだ」
 そう言って、はにかんだ悟空。は、八戒に教わったんだけどね。と付け加えた。
「三蔵、あの、ごめんな…でも俺、三蔵が心配で、だから」
「分かってる、俺も―――悪かった」
 三蔵の思いがけない一言に悟空の顔が輝き、それに目を細めて三蔵はついと、顎をしゃくった。
 執務机を回り込んできた悟空を膝上に抱き上げる。
「ガキじゃないぞ」
 と文句を言いながら、けれど悟空は紫煙の匂いが漂う胸元に、くふんと満足げに鼻をならして擦り寄った。

 俺のリラックスはこの匂いかも―――

 心の中だけで呟いて、抱きつく力を少しだけ強くした。 

#04

 ♪は〜るの小川は、さらさらいくよぉ〜
「機嫌がいいな」
「そりゃぁね」
(三蔵から散歩に誘ってくれたんだから)
 空の青と小川の蒼と草の緑、お日様はキラキラ、悟空は三蔵と手を繋いでのんびりと歩く。暫くして、
「蓮華だ」
「蓮華だな」
 辺り一面、緑と薄紅の絨毯。
「蓮華と、くれば」
「花冠、か」
「よし三蔵、競争」
「おい」
 フライングスタートの悟空は器用に花を束ねていく。
 それがあまりにも楽しそうだから、たまに乗ってやるのも悪くない。とは、三蔵の自身に対するただの言い訳。
 競争ならば負けるつもりは無い。たとえゴールが「蓮華の花冠」でも。

 そして―――
「出来た…三蔵!」
「おら」
「わ、上手」
「お前に作り方を教えたのは俺だ」
「そうだったね。でも俺のは首飾り」
 と笑った。それから、互いの出来栄えを見せ合い、悟空の首飾りは三蔵へ、三蔵の花冠は悟空へ。
 ほんのりと薄桃色に頬を染めた悟空が、
「結婚式…みたい」
 などと呟くから。
「…するか」
 なんて、本当に奇跡のような一言を、思わず三蔵が漏らした。

#05

八戒 : こんにちは
悟浄 : よっ
悟空 : 八戒、悟浄!いらっしゃい
八戒 : はい、悟空
悟空 : え?わ
八戒 : 一日遅れですが、お誕生日おめでとうございます
悟浄 : おめっとさん
悟空 : うわぁ、ありがとう、八戒悟浄!これ、矢車菊…
八戒 : そうです、前に好きだって言ってたでしょう
悟空 : うん、見て三蔵
三蔵 : ああ

八戒 : 相変わらず、ここの庭は花盛りですね
悟浄 : お前に、こんな才能があったとはねぇ〜
悟空 : 何だよ、悟浄
八戒 : まあまあ、お菓子も持ってきましたから、お茶にしませんか?
悟空 : わぉ、マフィンある?
八戒 : ありますよ
悟空 : やた!お茶の準備してくる
八戒 : 手伝いますよ
悟空 : うん

八戒 : 昨日は二人でお祝いしたんですか?
悟空 : ん?…うん///
八戒 : よかったですね
悟空 : うん

悟浄 : な〜んてか、いつまでたっても新婚だよなぁ
八戒 : あんな穏やかな三蔵は、以前なら考えられませんでしたからね
悟浄 : ま、今が一番良い時って事だろ
八戒 : そうですね

三蔵 : どこへ置くんだ
悟空 : ん、寝室…庭じゃ可愛そうだからね、一人ぼっちで
三蔵 : 唯一の紫か
悟空 : 唯一じゃないよ
三蔵 : 一緒にするな
悟空 : そりゃ、一番綺麗なのは三蔵だよ
三蔵 : ふん

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