───振り向いて……。


───抱き締めて……。



そして………。





振 り 向 い て   き 締 め て




誰かを好きになると、とても我儘になるらしい。


先日、想いの丈を「好き」という言葉で伝え、三蔵はその応えとして接吻をくれた。

それが、三蔵の想いであるということを信じている。

疑ってなど、いない。

いないけれど、時々不安になる。

本当に、三蔵も自分を好いてくれているのか、と。

例えばそれは、今日みたいに街に買い物に出た時に思うのだ。


今日は三蔵の公務が休みで、三蔵は珍しく軽装でいる。

そんな三蔵に「出かけるか?」と誘われた時は、嬉しすぎて飛び跳ねて喜んだ。

そうして二人で街に出てきて、露店やらを覗くのだけれど。


「あら、三蔵様。ご機嫌麗しゅう。」


その声を聴いて、悟空は溜息を吐いた。

今日はこれで何度目だろう。

街に入ってから、三蔵は女性に声をかけられては立ち止まる、ということを繰り返しているのだ。

三蔵に声をかけてくるのは、みんな美人で。

三蔵と並んでも、負けず劣らず、といったところだろうか。

何やら少し話し込んでは、丁寧に挨拶をして去って行く女性たち。

余りにもその数が多いため、悟空は三蔵と並んで歩くことを躊躇われて。

遠慮がちに少し後ろを歩けば歩いたで、三蔵はそれに気付かずに前へ進んで行ってしまう。


───今日は、三蔵を独り占めできるはずだったのに……。


そう思い、はたと気付く。


「独り占め……。」


その言葉が、何故か妙に引っ掛かる。

なんだか、響きが悪い。

そもそも、三蔵は誰かのものなどではない。

つまりは、三蔵は自分のものではない訳で。

そういう浅ましい自分の気持ちに不快になって、悟空は足を止めた。

当然、気付いていない三蔵とはどんどん距離が離れていく。


悟空はふと、顔を上げた。

少し先に、三蔵の背中。


───振り向いて………。


自分がここに居るという事に、気付いて欲しい。


───振り向いて………。


祈るように、真っ直ぐ三蔵を見つめる。



すると。



微かに肩を揺らし、何かに気付いたように、三蔵が振り返った。

そして、悟空と自分の間に距離があることを知り、眉を寄せる。


「どうした、悟空。」

「………。」


問い掛けても、悟空の返事はない。

悟空はただ只管此方を見詰めているだけだった。


「悟空?」

「………。」


再び呼んでみても、悟空は何も言わず。

その代わり、一心に見詰めてくる黄金色の瞳が、何かを語っていた。

三蔵は軽く溜息を吐き、足を踏み出す。

悟空との間の距離を縮め、悟空の元へ辿り着けば、悟空は瞳を潤ませていた。


「……置いてくぞ、猿。」


そうは言いつつも、悟空の腕を掴み、引き、歩き始めた。




結局、街ではマルボロを3カートン買っただけで。

本当なら、悟空に菓子の一つでも買い与えてやろうかと考えていた三蔵ではあったのだが、

悟空の様子がおかしいのに気付き、寺へ戻ることにしたのだ。

あれから、悟空が一言も話さない。

そんな悟空に、段々と苛立ってくる。

街を出、寺へ戻る途中の小道で三蔵は立ち止まった。


「……一体、何なんだ。」


不機嫌も露わに言えば、悟空はビクリと肩を揺らした。


「何が不満だ。言ってみろ。」


そう言われて、悟空は暫し三蔵を見詰めた後、俯いた。


「……別に……不満なんて……。」

「不満がねぇなら、何だ。何で、ずっと黙ってやがる。」


ボソボソと言う悟空に、三蔵は更に苛立ちを募らせた。


「それは………。」


そう言ったきり、また黙ってしまった悟空。

三蔵が大袈裟なほど大きく溜息を吐けば、悟空はまた肩を揺らした。


───別に………。


不満がある訳ではないのだ。

ただ、先程の自分の想いに、嫌気がさして自己嫌悪に陥っているだけ。

三蔵を「独り占め」したいと想ったこと。

三蔵に「振り向いて」欲しいと想ったこと。

そんな我儘な想いを抱くようになるとは思ってもみなかったのだ。

以前なら、自分の気持ちに応えてもらえればそれで良かったのに。

応えてもらったらもらったで、もっともっと、と思う。

今もそうだ。

「振り向いて」欲しいと想って、振り向いてもらえたのに。


───抱き締めて………。


こんな、自己嫌悪と妙な不安の、綯い交ぜになった自分を。


───接吻をして………。


そんな想い全てを払拭出来る程の。

三蔵が、ちゃんと自分を想ってくれているという証を欲しい。


「……悟空?」


じっと、潤みを持った瞳で見上げられ、三蔵は更に顔を顰めた。

必死に訴えるようなその黄金色。

三蔵は暫し見詰め返して、フッと笑った。


「……目は口ほどに物を言う、と言うが……。」


言いながら。

手を伸ばし、悟空の後頭部に置いて、グイと引き寄せ。


「言いすぎなんだよ、バカ猿……。」


そう続けて、ゆっくりと三蔵の唇が降りてきた。

やがて重なった唇は、何度も角度を変えて啄ばみを繰り返し。

一頻り接吻を堪能して唇を放し、三蔵は悟空を抱き締める。

優しく、深茶色した悟空の髪を撫でてやれば、悟空はようやく笑顔になった。


「すごい……。」

「あ?」


頬を三蔵の胸に摺り寄せながら、悟空は言う。


「俺の想ってたことが、三蔵に伝わった……。」


こんなに我儘な想いを、三蔵が読み取ってくれた。

見詰めただけで……。


「…ヤキモチ焼いてただけなんだ…。街で、女の人が一杯三蔵に話し掛けてきてただろ?

そしたら、なんかすっげぇ嫌な事思ったんだ。」

「嫌な事?」

「うん……。『三蔵を独り占めできるはずだったのに』って。それから不安になって……。

『振り向いて』欲しいって、『抱き締めて』欲しいって、『接吻して』欲しいって……。

俺、我儘だよな………。」


自分の罪を告白するように言えば、三蔵は苦笑した。


「我儘じゃねぇ。」

「ホント?」

「そんなの、人を好きになりゃあ当り前だ。それだけお前が俺を想ってるってことだろ?」


よくもまぁ、そんな言葉を冷静な顔で言ってくれるものだ。

悟空は三蔵に言われ、顔を赤く染める。


「じゃ、じゃあ、三蔵も俺みたいに想う?」


聞けば。


「……さぁな。」


それだけで一蹴されて。

けれど、抱き締めてくれている腕の力が強まったから。

また一つ、接吻をくれたから。

まぁいいかと想ってしまう。








時に、人は我儘になるけれど。



それは、相手を想うが故の気持ち。



そう気付いたのは、春先の夕暮れ時の事─────。



なち様のサイトで、三空の日freeのお話
三蔵が大好きでたまらない悟空
故に自分の気持ちに嫌悪して…
でも、そういう事もひっくるめて、全部悟空を解ってる三蔵
絶対に入れない絆を感じる作品です///
なち様、素敵なお話をありがとうございました

花淋拝