嬉しいね




「悟空」
「はい、三蔵」

グラスに酒を注ぎ足す悟空は、実に嬉しそうである。
それもそのはず。
毎年年明け三日間は忙しくて私室には寝に帰るだけだった三蔵が、今年は二日目から一緒に居てくれているのだから。

「よかったですね、悟空。三蔵が居てくれて」

最後は三蔵へ向けての皮肉。
悟空が寂しいだろうと、何時もより張り切ったし、それより何より三日までは悟空を思いっきり甘やかせると思って来た八戒。そして顔を合わせる度に口げんかなどしているが、やはり悟空を可愛いと思っているのは八戒と同じで、楽しみにしていた悟浄。
「いらっしゃい」と嬉しそうに笑う悟空。それを楽しみにしながら、普段悟空が居る三蔵の私室をノックしたのに、自分たちを出迎えたのが不機嫌絶好調のしかめっ面をした最高僧だった。その顔は「何故お前らが来る」と言いたげな表情で・・・

「夫婦か、お前らは」
「・・・知らなかったんですか?」

まさに目の前で繰り広げられるのは、熟年夫婦のようで、嫉妬を通り越して呆れるばかり。
そして呆れるため息と共に吐き出された悟浄の言葉を、隣に座る八戒にあっさりと肯定され、どっと疲れが押し寄せて項垂れる。

「悟浄、酔っ払い?」

ガクリと頭を下げた悟浄を見て、悟空がちょこんと首を傾げて聞いてきた。
「ちがいますよ」と言いかけた八戒だが、悟空の顔を見るなりその言葉は瞬時にしてぶっ飛んでしまったのである。
ほんのり頬が赤く、へへっと笑っている。それだけなら暑くなっただけなのだろうと思ったのだが・・・
よく悟空の顔を見ると、目がトロンとしていて・・・

「三蔵・・・」
「飲ませろって煩かったからな」

酒をといい終わる前に肯定されてしまった八戒の言葉。
それを言った三蔵は、ひとクセもふたクセもあるような笑みを浮かべながら悟空の背中を見下ろしていた。

「だからって貴方・・・」
「甘酒だ。構わんだろ」
「甘酒だからって・・・。何を考えているんですか」
「別に何も。・・・おもしれえからな。こいつが酔っ払うと」

知らなかっただろう、と自慢げに言う三蔵に、ほとほと呆れるばかりの八戒。

「あ〜あ、寝ちまったぜ?こいつ」

会話を聞いて、呆れて物も言えないといった表情で、テーブルに突っ伏している悟空を、頬杖を吐きながら聞こえるように呟いた。

スースーと規則正しい寝息を立てながら、頬を朱に染めたまま幸せそうな顔をして眠る悟空。
その顔をみれば否が応でも分るから、これ以上三蔵に何も言うまいと諦め、しょうがないと言ったため息で悟空を起こさないように気を配りながら小声で話した。

「ん・・・。さ・・ぞ・・・・・だい・・・き」

小さな声で聞こえて来た寝言。
にこりと笑って再び静かな寝息をたて始めた。

「よっぽど嬉しかったんですね」
「いっつもお前抜きだったからな」
「・・・フン」

言われなくとも知っている。そんな事くらい。
三蔵は内心二人にそう言いながら、寝てしまった悟空の背中にソファに置いてあった毛布を掛けてやる。
それに気づいたのか、悟空がへへっと笑って穏やかな寝顔になった。
それを黙ってみていた八戒と悟浄は、普段とは違った、穏やかで暖かな空気を纏った三蔵に気づき、顔を見合わせ苦笑する。

それから少しの間、酒を飲みながら、僅かに残った八戒の料理をつまんで、他愛の無い話をした。
その間に何度か悟空が寝言を言っていたが、本当に微かに聞こえるくらいたっだので、何と言ったのかは分らなかったが、三蔵の表情と空気で大体の予想はついた。

「悟空も寝てしまったし、このままでは風邪、ひいてしまいますから」

そこまで言うと、んじゃ、と悟浄が腰をあげて悟空を抱えてベッドへと寝かせた。すると三蔵が何時の間に立ったのか、悟空に布団をフワリと掛けてやる。
そして二人が振り向くと、八戒が「そろそろ僕たち失礼しますね」と言い、テーブルの上の料理やらコップやらを悟空が起きないように気を配りながら片付け始めた。
残った料理を綺麗にまとめて一つの皿に盛り、空いた容器は持ってきた紙袋へと仕舞い、終始はしゃぎっぱなしだった悟空に、寝ているけれど「また来ますね」とだけ言って、悟浄と共に自宅へと帰って行った。

「また来ますから」
「サルの顔見にな」

「迷惑だ」と言う三蔵に、「おやすみなさい」と挨拶をしてジープに乗り走って行った。

八戒たちを見送った後、私室に戻り残った酒を取り出したグラスに注いだ。

「いっしょに居てやるよ。しょーがねえからな」

一人にすると煩せえし、と声に出さずに付け加え、悟空の寝顔を愛しげに見つめていた。
全身で嬉しいと訴えてくる悟空が愛しいと、そう想いながら・・・







  こちらも紫乃魅さま宅のお正月freeです。
  原作のお正月風景。大人3人の思惑が、とてもツボですo(≧▽≦)o
  一人、悟空の幸せそうな笑顔…でも、悟空が嬉しいなら、きっと3人だって。
  二人の「また来ます」の言葉に、はっきりと迷惑と答える、三蔵様の独占欲がたまりません!