涙の濡れた後で




「おい、そろそろ起きろ」

肩に寄りかかる茶色の髪をやんわりと撫でると、この幸せそうな寝顔からまだ覚めさせたくないが、と思いつつも聞こえて来た声に、仕方が無いと揺り起こす。
「ん・・・」と声がしたけれど、窓から差し込む朝日が眩しいのか、顔を肩の方へと向けて摺り寄せる。

「悟空」

耳元でそっとその名を呼んで、列車が駅に着くのだと教えると、眠い目を擦りながら瞼をそっと開けた。

「もう着いたの?」
「ああ。上着、ちゃんと着ろよ」

窓の外を見ながら言うと、悟空も振り返って窓の外へと視線を動かす。

「ゆき?」
「そうらしいな」

言いながら身支度を整える二人。



“Twilight”という名の夜行列車に乗って、二人は除夜の鐘が鳴るのと同時に育った町から旅立った。
楽しいという思い出が、あの街には無かったから。
気づいた時には、平気で人を傷つけていて、その上平気で人の命を奪っていた。
それが当たり前になっていて、人の命の重さなんか、まるで分っていなかった自分に気づいたのは、三蔵に出逢ったから。
もし出逢わなければ、今も変わらずあのままだったのだろうと思う。

二人が惹かれ合うのは、もしかしたら運命だったのかもしれない。
たとえ出会ったのが偶然でも、今、こうして一緒にいるのだから、あの出会いは必然だったのかも知れない。



「降りるぞ」

駅に着いた列車から降りると、舞い降りてくる白い雪が、それまでの自分たちの過去を真っ白に染めてくれているみたいで、俺は三蔵の手をグッと握り締めた。

「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」

心配したのだろうか。三蔵が悟空の手を握り返して振り返ると、無理はするな、と紫の瞳がそう言っていた。

「俺は大丈夫。三蔵が居てくれるから」

大事にされているのが分るから、だから大丈夫。
それを伝えたくて、にこりと笑って三蔵に言うと、それが伝わったのか、三蔵の表情が少し穏やかになった気がした。



これから始まる新たな世界で、二人なら乗り越えられる気がする。
今なら分るから。
お互いがお互いを必要としていることが・・・
だから大丈夫なんだ。



ホームを出ると、雪が舞っている空から、太陽が顔をのぞかせた。
二人のこれからを歓迎しているかのように-------





 F I N






 紫乃魅さま宅の、2005年三が日日替わりノベルです。
 「愛の逃避行」新年早々、激萌えのお話じゃありませんか!
 大丈夫、二人なら何も怖くない。
 や、やられました…紫乃魅さま、本年も宜しくお願い致します。