通勤通学ラッシュ。
乗り換え駅として大きい部類に入る西桜駅では何時もの光景。
溢れんばかりの人の波が、電車が到着するたびに津波のように押し寄せては引いていく。
「駆け込み乗車」は当たり前。
ドアに挟まった人の背中を力いっぱい押して、車両の中に無理矢理押し込んで、一息つけるのは、ラッシュが過ぎてから。

その時も、いつものように一息を入れて気の緩んだ時だった。
故意かそうでないかは分らないが、不意に背中に何かが当たって、無防備だったせいで、勢いのままホームから線路上へと転落してしまったのである。
そして不運にも、そこへ駅を通過する電車が接近していて・・・

キャーと悲鳴を上げる女性客達の中、一人の男が線路に飛び込んで、悟空を抱きかかえホーム下に転がった。そしてその直後、電車は駅を通過していった。


それが二人が知り合ったキッカケ。





イブの景色





この数日の落ち込みようがうそのように、大好きな金糸を見つけたとき、悟空は涙が出そうなくらい喜んだ。

「あ!三蔵、おはよ」

何時もの時刻、階段から下りて来た三蔵を見つけて手を振ると、手を振り返さないけれど、ふっと笑ってくれる。
それが朝の何時もの光景。

「お前仕事中だろ」

半ば呆れ顔の三蔵が、やはり呆れた声でそう言った。

「今日はもう交代の時間なんだ。俺、これから30分くらい休憩して、夕方まで」
「なら、5時に改札」
「わかった!!」

以前からお願いしていたデート。常に忙しい三蔵のことだから、無理だと半ば諦めていたけれど、約束の時間を告げられて嬉しそうに笑った悟空の心は既に夕方へと飛んでいた。
それが分っている三蔵は、コツンと頭を小突きながら、「仕事だけはちゃんとやれよ」と言って、去り際に「夕方な」とふっと笑って電車の中へと入って行った。



一日が長くて、と感じていたのは本当で。
たまのデートだから仕方が無いのかもしれないが、その日悟空は一日中ヒマさえあれば時計と睨めっこをしていた。

「あと10分」

ホームに吊るしてある時計は4時50分をさしていた。
ワクワクどきどき。まるで子供の遠足前夜。同僚からも「ガキみてー」と笑われたけれど、浮かれる気持ちは抑える術も無く。
カチ カチと動く時計が5時をさした瞬間、「お疲れ様でした。お先です!!」と交代の先輩職員に挨拶すると、ホームを駆け抜けて普段の倍以上早い時間で身支度を整え、待ち合わせの改札まで走って行った。


はあはあと息を切らせて階段を駆け上がってきた悟空は、すぐさま三蔵を見つけると、呼吸は苦しいくせに途端にその表情は笑顔へと変化する。

「お待たせ。今日は何処に行こうか?」
「店、予約してあるから行くぞ。腹、減ってんだろ?」

意地の悪い三蔵の笑顔に、ムードが無いと文句を言うが、それもどうやらグゥ〜と鳴った腹の虫たちに負けてしまったらしい。
予約したのはどんな店なのかと三蔵に聞くと、悟空の大好物である中華の店だと教えられ、更に盛大な大合奏が聞こえて来た。

「ムードがねぇのはお前の方だろ」

ボソリといった三蔵の一言だけれど、悟空はあえて返事をしないで、今日あったことや三蔵に逢えなかったときの思いを店についてから食事が終わるまでの間、ずっと話していた。
それに三蔵はワインを飲みながら、時折相槌をうって悟空のクルクル変わる表情に愛しさを感じていた。

「おなかいっぱい♪」

ごちそうさまと満足気な悟空に、その小さな体の何処にそんな大量の食物が入っていくのかと、半ば呆れたように「よく食うな」と意地悪く笑ってみせる。

「少し歩くか」

レジを済ませ店の外に出た二人は、その先に見えた並木道をゆっくりと並んで歩いて行った。



「俺ね、寂しかった」

並木道を歩きながら、悟空はポツリと言い、三蔵が黙っている事でちゃんと聞いてくれているのだと、先を続けた。

「最近三蔵、朝とかもいつもより早かったし、夕方も、俺が帰ってからだろ?」

何がと聞かなくても三蔵の通勤時間の事だと理解して、ああ、と短く返事をする。

「忙しかったのはちゃんと分ってた。だから、逢いたいって何度も電話したかったけど、迷惑だよなって思ったら出来なかった」
「・・・・・・・」
「だから、今日も明日も逢えないんじゃないかって勝手に思ってて・・・」

最後は泣き声になってしまった悟空の肩を、三蔵はそっと抱き寄せると、やわらかな口調でそっと悟空に話す。

「寂しかったら何時でも言え。直ぐに逢う事はできないだろうが、話聞くことくらいはできるから。それに・・・」

肩から手を放すと、手を出せ、と悟空の前に自分の手を差し伸べた。

「クリスマスプレゼントだから、ありがたく貰っとけ」

空いた片方の手から悟空の手に渡されたそれは、ひんやりと冷たくて、思わず手を引いてしまいそうになったけれど、三蔵の両手に包まれた手はそう出来なかったけれど、三蔵の手は直ぐに放され悟空の手は自由になった。

「・・・さんぞ、これ」
「俺の部屋の鍵だ」

渡された時には冷たかったけれど、それを確かめた瞬間、暖かな感触に変わっていた。
そして、三蔵の言葉が夢のようで、悟空は一瞬言葉が出なかった。

「これ、・・・いいの?毎日、逢いに行っちゃうよ、多分」

迷惑じゃない、と続けた悟空の言葉に、三蔵ははっきりと答えた。

「迷惑だったらそんなもん渡さない。逢いたいと思ってるのは、お前だけじゃねえんだよ」

三蔵の胸に思いきり飛び込んだ悟空を、しっかりと抱きしめて受け止め、そう告げるが・・・
一緒に住まないか、と言いかけた三蔵に気づかず胸に顔を埋める悟空に苦笑しながら、それは春になるまで待とうか、と密かに心で誓った。




それから毎日とはいかないが、一日おきくらいに自宅とは反対の方向へと通う悟空の姿があったとかなかったとか。
またそれは別のお話・・・






おしまい



紫乃魅さまのクリスマス限定フリーを、頂きました。
出会いが劇的ではありませんか!
寂しさを我慢する悟空が、とてもツボでございますvv
そして、春には三蔵様、プロポーズなんですね♪

紫乃魅さま、サイトアップを快諾してくださって、ありがとうございます。
ますますのご活躍を、お祈りいたします。