桜の花には魔力でもあるのだろうか

   天に舞う花弁は

   大事な人を連れ去って逝こうとする





桜の花弁




寺院から離れた場所にある桜の名所。
昨年の春に公務からの帰り道に見つけた場所。

初めにこの場所を見つけたときに浮かんだのは、悟空の笑顔、だった。
公務に行く数日前に八戒たちも交えての花見の時に見た、見せてくれた悟空の笑顔がふと思い出された。
それが忘れられなかったのか、またあの笑顔が見たいと知らずの内に己が望んでいたのか、来年は此処へ連れてこようと三蔵は密かに決めていた。





今年は二人で行きたいと言っていた悟空と二人、街を抜け出し山道を歩き、此処に居る。

「三蔵、すごいね」

見渡す限りの桜。
此処に辿り着いて暫く黙っていた悟空が口にしたのは、溜息交じりの声だった。
それからまた悟空は黙ってしまってたが、それはそれでいいかと、そう思う。

何となくだけれど感じていた、悟空の桜への想い。
仮定でしかないけれど、忘れてしまっている過去の記憶の、多分・・・キーワード、なのだろう。

思い出して欲しいと思う気持ちと、思い出さないでくれと祈る気持ち。

何時ごろまでだったかは憶えていないが、そんな相反する気持ちが己の中に存在していた時期があった。
だが、今ではそれは薄れていて、今こうして傍に居ることが出来るのだから・・・
傍に居られることが、今得られる幸せならば、今を大事にしようと・・・そう思えるようになった。

愛しいと思える相手が笑っていてさえくれれば、それでいい。

見渡す限りの桜を見て、嬉しそうに笑う悟空。
俺はその姿を見つめながら、大木の根元に座る。

「三蔵、すごいよ」

風に吹かれて舞い落ちる桜の花弁。
それを浴びるように、両手を天へと伸ばす悟空。

不思議な光景だった。

もしかしたら桜がそのまま悟空を何処かへ連れ去ってしまうのではないか・・・
そんな不安が一瞬過ぎったけれど、それは振り向いた悟空によって払拭される。

今まで見たことも無い笑顔。

俺の心臓が高鳴る。

綺麗過ぎて言葉が出なかった。

何者にも汚されていない、純真無垢の心。

「三蔵」

そう思わせる悟空の口から出た言葉は・・・・・・俺。

天へと伸ばしていた両手をゆっくりと下ろし、俺の方へと真っ直ぐ伸ばして名を呼ぶ。

俺はそれに惹かれるように、左手をゆっくりと悟空の方へと伸ばした。

「悟空」

やっと出た言葉は、誰よりも愛しい者の名。
そして、それが聞こえたのか、悟空はゆっくりと一歩を踏み出そうとした。

その瞬間

悟空の姿を覆い隠すように舞い上がった桜の華。

「悟空!!」

本当に連れ去られてしまう。
刹那そう思った俺は、思わず悟空の名を叫んで立ち上がっていた。


大地の御子だと?
いつか大地に還さなければならないだと・・・?

ふざけるな!

悟空は俺のものだ。
一度掴んだ手を離す気はねぇんだよ。
勝手に悟空を連れて行くなんざ、許さねえ。


俺は桜の花を蹴散らして、悟空の元へと駆け寄っていく。


「悟空っ」

舞い上がる桜の花の真ん中に立っていた悟空の手を掴み、その身を引き寄せた。

「誰にも連れて行かせねえ。お前は俺のもんだ」
「・・・さん、ぞ・・・」
「一度掴んだお前の手を、俺は離す気はねぇからな」
「・・・三蔵」

引き寄せられた悟空は、両手を三蔵の背中へと回してぎゅっと抱きしめた。
三蔵もまた、悟空の身体を抱きしめ、そして、桜と天を見据える。

「悟空を連れて行こうとする奴は、神であろうが自然であろうが許さねえ」

三蔵がそう言い放つと、桜の花は一気に天へと駆け上っていった。




――― お前の言葉、お前自身で裏切るでないぞ ―――




微かに聞こえた言葉に、三蔵は「当たり前だ」と胸中で応えた。






FIN


2006.3.23 著:志桜紫乃魅
(C)FASCINATION



  紫乃魅さまのサイト三周年記念ノベルでございます。
  悟空を奪うものが自然であろうと神であろうと許さない。も、萌えです///こんなに強烈な愛の告白…
  ただただ、ため息ついてニヤけてしまうばかりです。
  紫乃魅さま、三周年本当におめでとうございます。ますますのご活躍を、心よりお祈りいたします。
  そして、これからもよろしくお願いいたします(ぺこり)
  花淋拝