怖かった世界が、怖くなくなった
音が無かった世界から、音が聞こえるようになった

それは、たった一人の人が居てくれたから



白銀



ぶるっと身震いする身体を毛布に包み込むと、すやすやと規則的な寝息が再び聞こえ、ホッと安堵の息を吐く。

何時からだろうか、こいつがアレを怖がらなくなったのは。

ふと過ぎったのは、悟空が寺院に来て半年くらい経った頃の事。
桜の季節に連れて来てあっと言う間に夏、秋と過ぎていき、冬が訪れた。
俺は『三蔵法師』と言う名だけの職務を忙しくこなしていた時だったろうか?
悟空を見つけるまで頭の中に聞こえていた “声” が再び響いて来た。
あの、悲鳴のような、泣き声のような声が。

「どうした、悟空」

それだけを言うのが精一杯な自分。
悟空の部屋へ行き、蹲る姿を見て、一瞬言葉が出なかった。
普段の走り回る姿からは想像が出来ない程の怯えた姿。
俺は悟空の震える身体を抱きしめてやることしか出来なかった。



今の姿からは想像なんて出来ない姿。


「あ、三蔵ー!!」

頬を赤く染め走ってくる姿は子供そのもの。
だからだろうか、この後こいつが言ってくることが大体想像できる。

---三蔵も一緒に遊ぼうよ---
だとか言ってくるんだろうな、こいつは。

「三蔵、暇なら一緒に遊ぼう!」

ほら、な。
まったくコイツはしょーがねえな。

「ククッ・・・」

思わず漏れてしまった笑い。それを目ざとく見つける子ザル。

「今俺のことガキとか何とか思って笑ったろ!三蔵だってじゅーぶん “ガキ” なんだからなっ!」
「ガキにガキとか言われたくねえな。クソガキ。それに俺はてめえほどヒマじゃねえんだよ」
「え〜!?まだ仕事あんのか?」
「当たり前だ」

頬を膨らませて拗ねる悟空を何とか宥め、夕刻までの『三蔵法師』としての職務をこなす為に本堂へと赴いた。

何を好き好んでどっかのジジイとババアの為に経を読まねえとなんねえのか理解出来ないが、それをやらないとあのクソジジイが煩せえからなぁ。
などと内心悪態を吐きながら、バレない程度に手を抜いて、テキトーにそれらをこなした。





「あ、三蔵おかえりなさい」

本堂から戻ると、部屋には悟空が居て、テーブルの上に白い物体が置かれていた。

「おい、なんだソレは」
「これ?ユキウサギってゆーやつ」

可愛いだろ?とニコニコ上機嫌で返す悟空は、実に満足気。
しかしそれとは反対に、三蔵はというと・・・・

ユキウサギなんてもんは俺はコイツに教えてねえ。と言うことは、あいつ等か。
ったく毎回毎回どうでもいいことばっか入れ知恵してんじゃねえよ!
この雪だって溶けたら此処が水浸しになんじゃねえか!!(怒)

などと悪態を吐きまくっているのだが、幸い悟空にはバレていないらしい。

「悟空、それをこっちに持って来い」
「これ?」
「ああ」
「なんで?三蔵、これ、イヤだった?」

不安気に聞いてくる悟空に、安心させるように言葉を選ぶ。

「そこよりこっちの方が溶けにくいだろ」
「・・・そっか。うん!そーだね」

不安で泣きそうな顔から一転、悟空の笑顔が溢れた。
少しだけ溶けてしまったユキウサギを大事そうに敷いていた板ごと持つと、窓の傍に静かに置いた。


そして二人は買い揃えておいたコートを着て、町へと出掛けて行った。


月の光に照らされた真っ白の雪が、辺りを明るく照らしている。
二人の足音以外に何も音のしない世界。

「寒くないか?」

悟空の少し後ろを歩いていた三蔵がポツリと言うと、クルリと振り返り、笑みを湛えて「大丈夫」と答える悟空。

その姿に昔の、雪を怖がっていた面影は無く、もう心配は要らないのだと感じた。

「あのね、三蔵」

三蔵に背中を向けたまま立ち止まり、言葉を発する。

「雪、もう大丈夫。怖くないから、大丈夫。・・・・・・・・・・三蔵のおかげだよ?」
「俺の?」
「うん、そう。三蔵がずっと傍に居てくれた・・・ううん、居てくれるから、大丈夫なんだよ。震えてた俺を、怒るんじゃなくて、ギュッって抱きしめてくれたから大丈夫」

ピースサインを出して微笑む悟空が、月明かりに照らされキラキラと輝いて見えた。
本当に嬉しそうな笑顔。
それだけで三蔵の中にフワリと温かな空気が流れ込んできた。

悟空の笑顔。

それはそれでいいのだが、何故か悔しいと、ヘンな感情がこみ上げてしまった。

「大丈夫なんだな?なら、寝る時は今日からはお前は一人だな」

にやりと笑った三蔵に、悟空は慌てふためき抱きついてきた。
「やだっ!!」と言って。

どうやら悟空の中では、雪が平気になったから一人でも大丈夫、というのと、雪は平気だけど三蔵と別々、というのは違うらしい。
そんな悟空らしい姿に三蔵は自然と笑みが零れた。

そして・・・

「しょーがねえな」

と言って、悟空の小さな我侭を承諾したのだった。

悟空の笑みを失わないように。



終わっとけ;


(C)志桜 紫乃魅/FASCINATION


  紫乃魅さま宅でお正月フリーノベルを、頂いてきましたvv
  雪に怯える悟空を抱きしめる三蔵様。そして、三蔵様の「愛のチカラ」で雪を克服した、悟空のピースサイン。
  はちきれそうな悟空の笑顔が一瞬で浮かんできます♪でも三蔵様、強くなった悟空に、ちょっとだけスネたりして///
  うう〜、新年早々なんて、ラブラブな二人なんだーっ!!
  こんな素敵なお話を書かれる紫乃魅さま、本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。
  
花淋拝