時 雨




窓から空を見上げてみれば、爪の先ほどの細い三日月が、厚い雲に隠れようとしていた。


───雨が降る、な……。


そう思い、小さく溜め息を吐いて。

ケースからマルボロの砲身を取り出し、口の端に咥えた。

火を点けようと、少し俯いた時。

視界に入ったのは、細い肩を覗かせて、睡眠を貪る悟空の姿。

上掛けを掛け直してやってから、その丸い頬に指先を這わせた。

そして、首筋に咲く紅い花を見止め、苦笑した。

よくよく見てみれば、首筋どころか。

上掛けをかけてやった肩先や、鎖骨の辺りにまで咲いているそれは、明らかに自分が咲かせた花で。

そんなことで独占欲を誇示してみたところで、意味もないのに。

それでもそうしてしまうのは、相手が悟空だからなのだろうか。

否、それはそんな漠然としたものではない。

先刻、あれほどまで啼かせても、まだ足りない。

止め処なく溢れる欲は、一心に悟空だけを求めているのだから。

悟空以外と、だなんて、考えたくもない。

寧ろ、吐き気がするぐらいの嫌悪感だ。


思いに耽っている間に、外はどうやら雨が降り出したようだ。

細い雨粒は、夜気を更に冷やしていく。


「ん……。」


小さく唸った声に、再び悟空に視線を戻せば、悟空の睫毛がふるふると震えて。

金晴眼がゆっくりと現れた。


「さんぞ……?」

「もう少し寝ていろ。まだ真夜中だ。」


言えば、悟空はふわりと笑んで。

そのまま眠りに就くかと思われたが、予想に反して悟空はまた眼を開いた。


「雨……降ってんの?」

「……ああ。」


二人の視線は、窓の外へ移る。

このまま雨が降り続ければ、明日は出発することが出来ないだろう。

西への足が、また止まってしまう。

こればかりは仕方のないことなのだけれど。


雨は、苦手だ。

それだけは、きっと変わらない。

けれど、昔ほど雨を忌み嫌わなくなったのは。

そこまで思って、三蔵は自嘲の笑みを浮かべた。


───ダセぇな。


まさか、そんなこと……と、否定する自分が居る。

多分、そうだろう……と肯定する自分も居る。

きっと、どちらも真実なのだ。


「俺……前は雨って、好きじゃなかったんだ。」


悟空が、ポツリと呟くように言った。

それは初耳だった。

雨だろうがなんだろうが、この仔猿には天気など関係なく。

寺に居た頃は、只管遊んでずぶ濡れになって帰ってくることなど、しょっちゅうあった。


「雨降ると、三蔵いっつも辛そうな顔するし……。どっか、遠いとこに行っちゃった気がして……だから俺、そんな

三蔵見てたくなくって、雨降っても外で遊んでた。」


でも、結局風邪ひいて怒られてたけどな。

加えてそう言って、悟空は笑った。

三蔵は、そうだったのか……と、思う。

悟空がそんなことを考えて。

だから、雨の日でも外で遊んでたなど、知らなかった。


「でも、今は平気。時々、ダメなときもあるけど……でも、今は三蔵、傍に居てくれるから。」

「………。」

「三蔵、俺を傍に居させてくれるから。だから俺、雨の日って好きになった。」


そんな悟空の言葉に惹かれるように、悟空の方を見下ろせば。

真っ直ぐとこちらを見詰てくる金晴眼とかち合った。


「だって、雨の日なら、三蔵とくっ付いてられるもん……。」


言って、幸せそうに笑って。

擦り寄ってきた悟空に、三蔵は口角を上げた。


「……誘ってんのか?」


言いながら、自分も身体を倒して悟空に覆い被さる。

それを、悟空はそのまま見つめてきた。


「んー……どうしよ?」

「違うのか?」


言葉の合い間に、悟空の瞼や額や頬に、幾つも口付けを落とす。


「明日、雨かな?」

「……雨、だな。」


妙に確信を持って言う三蔵に、悟空が眉根を寄せた。


「マジ?」

「多分、な。」

「なんだよ、それ。」

「雨だ、雨。」


そんな事を話しながら、三蔵の掌が、悟空の肌を滑っていく。

ざわり、と肌が粟立って、悟空は思わず声を詰まらせた。


「……どうする?」


耳元で囁かれたと同時に、熱くなった吐息が掠めていった。


「んっ……。じゃあ……。」


一つ、喘いだ悟空は。

両手を三蔵の首筋に絡めて。


「明日は雨、ってことで……。」


艶やかに微笑んで、そう言った。

それを合図に、三蔵は悟空の首筋に顔を埋める。

ゆっくりと舐め上げれば、悟空の口からまた喘ぎが漏れた。


「あっ………ああ!」


突然、喘ぎとは違う声音で叫んだように言う悟空に、三蔵は思わず顔を上げた。


「なんだ?」

「今、何時!?」


言われて、部屋の備え付けの壁掛け時計に眼をやれば、もう真夜中の2時を回っていた。


「過ぎてんじゃんかっ!」

「だから、なんだ。」

「誕生日!」

「あぁ!?」

「三蔵の、誕生日だってば!」


そう言われてみれば。

もう午前零時を回ったのだから、今日は29日。

そんなことなど、すっかり忘れていた。


「忘れてると思った……。」

「んなの、お前が覚えてりゃいい。」

「ま、俺は忘れないけどさ……。」

「なら、いいだろ。」


まるで、どうでもいいとでも言うように。

三蔵はまた、悟空の首筋に顔を埋めた。

そんな三蔵に、悟空ははぁ…と諦めに似た溜め息を吐いて。


「さんぞ。」

「あ?」

「さんぞってば。」


しつこく呼ばれて、三蔵は仕方なしに顔を上げれば。


「誕生日、おめでと。」


言い様、悟空が啄ばむように口付けてきた。

それは、ほんの軽くしか触れなかったので。

三蔵は、どうせなら……と、自分から深く口付けてやった。

唇を放した頃には、悟空はもう息も絶え絶えになっていて。

薄っすらと涙を浮かべながら、恨めしそうにこちらを見上げてきた。


「やるんなら、これぐらいしろ。」

「ズリぃ……。」

「何のことだか、分からんな。」


しれっと言い放って、三蔵は続きを進める。

それから、悟空の口から甘い吐息だけが零れるようになるまで、そう時間はかからなかった。






静かな小夜に、時雨るる。

こんな雨の夜も、悪くない─────────。



copyright(c)beat sweet / なち サマ



 beat sweet / なち サマ宅の三蔵サマご生誕記念ノベルですvv
 ホントに、三蔵サマ悟空に夢中です///もちろん、悟空も♪
 お互いが深い愛情で結ばれている事が、ひしひしと伝わる作品ですよね。
 なち様のサイトは、他の作品もとても素敵なんです!
 なち様、これからもラブい二人のお話を、たくさん書いてくださいね!

花淋拝


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