夏の宝物



「おい、いい加減にしろ」
 どこからともなくセミの声の聞こえるのどかな夏の日の午後。いつもであったら執務室で仕事をこなしている時間、最高僧さまは寝室の扉の前にいらっしゃった。
「ヤダ。三蔵が悪いんだもん。謝るか、約束してくれるまでは出てかない」
 寝室の中から、養い子の声が聞こえてくる。
「だから埋め合わせはすると言っているだろうが」
「いつ?」
 畳み掛けるように返ってくる声。
「仕事が一段落ついたら」
「それはいつ?」
 頑固に言い募る悟空に、三蔵はため息をついた。さっきから同じような押し問答を続けていた。
「お前がそこから出てきたら、もっと早く仕事も終わるんだが」
 こんなことをしている間に、執務室に放ったままになっている仕事のいくつかは片付いていただろう。
「とにかく、俺は仕事に戻る。拗ねたきゃ、そこで好きなだけ拗ねていろ」
 少しは悪いという気持ちがあったので付き合っていたが、これ以上は本当に仕事が遅れるだけである。三蔵は寝室の前から立ち去ろうとした。
「いいもん。ベッドの上、ぐちゃぐちゃにして、寝られなくしちゃうから」
 悟空の言葉に、三蔵は頭を抱えたくなった。
 どこのガキだ、それは。
 どうしてこんなにも子供っぽいのだろう。
 確かに寺院は世間とは隔絶されている。だが、全てを達観した心清らかな人間だけがいる、美しいもののみの世界では決してない。子供を甘やかすような環境ではないし、悟空に対する風当たりはかなり強いから、苦労を知らなくて幼いのだ、という話にはならない。
 第一、三蔵自身も寺院で育っているのだ。早くに師匠を亡くして、下山してから辛酸を嘗めてきたことを差し引いても、自分の歳の頃とはあまりにも違いすぎる。
 カチャリ、と三蔵は寝室のドアを開けた。
 ベッドの上に座り込んでいた悟空が大きな金目を更に大きく見開いて三蔵を見た。
「……バカ面」
 思わず三蔵の口からそんな言葉が漏れる。
「なんで? 鍵、かけておいたのに」
「ここは俺の寝室だ。俺の部屋の鍵を俺が持っていて何が悪い?」
 いくら内側から鍵をかけても、無駄である。
「ったく、そんなことも思いつかなかったのか?」
 三蔵は悟空の方にと歩を進めた。
 ぱっと、悟空はベッドから飛び降りると、部屋の奥にと逃げ込んだ。
「お前なぁ、これ以上、手間かけさすんじゃねぇ」
「ヤダ。触らないで」
 悟空は近づいてくる三蔵を睨む。その口調の強さに、伸ばした三蔵の手が途中で止まった。
「三蔵に触られたら、またうやむやになっちゃうもん」
 その言葉で、不機嫌そうだった三蔵の顔に笑みが浮かんだ。
 前の時も結局、腕の中に閉じ込めて、耳元で甘く囁いて、何もわからなくなるくらいに優しく蕩かして終わったのだ。
「悟空」
 名前を呼ぶと、悟空の肩がビクッと震えた。手を伸ばすと、泣きそうな顔になった。
「三蔵のバカッ! 八戒にいいつけてやるからっ!」
 手が触れる直前、悟空は身を翻すと、近くの窓から外へと飛び出した。
「おいっ!」
 三蔵の手は空を掴む。
「待て!」
 制止の声も空しく、悟空の後姿は見る間に小さくなっていく。それを見送りながら、頭の中に先程聞いた言葉が蘇ってきた。
 八戒にいいつける。
 思わず眉間に皺が寄った。
 八戒は悟空には甘い。そして、悟空には何も知らない純粋な子供であってほしいと思っているフシがある。
 それなのに、三蔵と悟空が既にキヨラカな関係ではないと知ったらどうなるか。
 その怒りの矛先は間違いなく、三蔵に向けられるだろう。
 三蔵はため息をついた。

 結局、三蔵は仕事を放り出し、悟浄宅へと向かった。
 溜まっている仕事のことを考えると頭がイタイが、この場合は仕方がない。
 とはいえ、飛び出していった悟空を迎えにいくこと自体は珍しいことではなかった。特に、悟浄と八戒と知り合ってからは、安心して逃げ込む場所ができたからか、ケンカをする度に悟空は悟浄宅にと駆け込み、それを迎えにいくのは、ほとんど義務と化していた。
「おや、三蔵サマ。こんなに早くにお迎えとは、めずらしー」
 扉を開けた悟浄が意外そうな顔をした。
 いつもならば、仕事もあるし、自主的に帰ってくることもあるし、夕方以降になってからでなくては迎えにはいかない。
「……八戒は?」
 通されたいつもの部屋には八戒も悟空もいなかった。わざと悟空の名は出さずに三蔵は尋ねた。
「お宅の小猿ちゃんと部屋に閉じこもってる」
 悟浄の返事に、三蔵の眉がそれとわからないくらいにあがった。
「どこだ?」
「なぜか俺の部屋」
 悟浄の答えに、三蔵は勝手知ったる、でスタスタと奥に向かった。
「入るぞ」
 八戒の手前、一応、声をかけてからドアを開けた。
「三蔵?!」
 八戒と二人、仲良くベッドに座っていた悟空が立ち上がった。
「ほら、悟空、ちゃんと迎えにきてくれたじゃないですか」
 驚いたような顔をしている悟空とは逆に、まるで『当然』とでもいうように、にこにこと笑って八戒が言った。
 その様子に、まだ悟空が『言いつけて』いないことがわかって、三蔵は安堵した。
「帰るぞ」
 そして、短く告げた。
「ヤダ、三蔵が『ごめんなさい』って言うか、ちゃんと次の約束をしてくれるまでは帰らない」
 相変わらず頑固に悟空が繰り返す。
「だから埋め合わせはすると言ってるだろうが」
「いつ?」
 また繰り返すのかと、三蔵はため息をついた。
「オラ、四の五の言ってねぇで、帰るぞ」
「ヤダ」
 近づいてくる三蔵に、ジリジリと後退しながら悟空は答える。
 といっても、限られた空間である。結局、悟空は壁際にと追い詰められてしまう。だが。
「三蔵のバカッ!」
 先程と同じ台詞を投げつけ、身を翻して同じように近くの窓から外へと飛び出した。
 三蔵は額に手をやって、再度、ため息をついた。
 どうしてこうも行動がワンパターンなのか。
「邪魔したな」
 三蔵はそう言うと、もう用がないとばかりに、八戒にも悟浄にも一瞥もくれずに、悟浄宅を後にした。
「今度は何を揉めているわけ?」
 何だかミニ台風が通りすぎた後のようだ。悟浄が顔を覗かせて、八戒に尋ねた。
「詳しくはわからないんですが、なんでも三蔵が休みの日に美味しいものを食べさせてくれるって言っていたのに、どうやら仕事が入って行けなくなったみたいですね」
「それだけ?」
「えぇ」
「それだけで、あんな大騒ぎを起こせるとは」
 二人は顔を見合わせて、苦笑した。
「まぁ、今度が初めてってわけではないみたいですけどね。もう三回も同じことが繰り返されているって、悟空は言ってましたし」
「あー、それは小猿ちゃんなら怒るかもな。食いモンの恨みは恐ろしいって言うし」
 悟浄は髪をかきあげた。
「にしても、さっきの小猿ちゃんの言葉からすると、三蔵サマは『ごめんなさい』って言うか、次の約束をすればいいだけだろ? なんであんなにこじれてるわけ?」
「まぁ、あの三蔵が素直に『ごめんなさい』なんて言うわけはないですし、仕事が詰まっているようですから次の約束のメドもたたないっていうのがあるんでしょうけど」
 八戒はそこで『しょうがない』といったような表情を浮かべた。
「でも、あの人の場合、自分で意識しているかはわからないですけど、ただ単に悟空を苛めて楽しんでいるだけかもしれませんね」
 その言葉に悟浄は天を仰いだ。
「それって、何か? 好きな子をつい苛めてしまうっていう?」
「ま、それでしょうね」
 二人は顔を見合わせた。言葉には出さなかったが、同じ思いを抱いたのはわかった。
 どこのガキだよ、それ。
 
「ったく、なんだって、こんなことになっているんだか」
 三蔵はぼやきながら、寺院の裏山を登っていた。
 もう放っておこうとも思ったが、このまま放っておけばもっと面倒なことになるのは目に見えていた。
 外見も中身も子供の悟空は、あまり物事を深く考えるようにはできていないようで、構ってやらなければ、嫌われたと思い込む。
 嫌われたら、傍にはいられない。
 そして、そんな風に思い込んで、姿を消そうとするだろう。
 それでいながら、無意識のうちに泣いて呼ぶのだ。
 離れようとする行為とは裏腹に、一人になることをとても恐れる。
 泣きながら呼ぶ『コエ』
 できれば、それは聞きたくなかった。
 悟空のなかに、消えることなく残っている孤独や絶望の記憶。
 そんなものをもう二度と味あわせたくなかった。
 いつでも、笑っていればいい。
 無邪気に。
 やがて、三蔵は一本の大木に辿りついた。
「悟空」
 そして、目に鮮やかな緑を見上げて呼びかけた。
 夏の盛りで、勢いよく葉を生い茂らせた大木は下から見ただけでは、そこに誰かがいることなどわからない。だが、三蔵が声をかけると、微かに枝が揺れた。
「いつまで拗ねている気だ」
「だって、三蔵が悪いんじゃん」
 どこか不貞腐れたような、小さな声が上から降ってきた。
「仕方ねぇだろ。別にワザとやっているわけじゃないんだから。お前だってそれはわかってるんだろ?」
 そう問いかければ、沈黙が返ってくる。
「帰るぞ」
 だが、下りてくる気配はない。
 いつの間にか、日が傾きかけていた。ようやく暑さが引いて、少し涼気を含んだ風が渡っていく。
 三蔵は、今日、何度ついたわからないため息を、もう一度ついた。
 いつまでも付き合ってここにいるわけにはいかない。溜まった書類が独りでになくなることはないのだから。
 たぶん、ここまで迎えにきたという事実があれば、泣いて呼ばれることもないだろう。
「悟空、俺は仕事に戻る。ちゃんと自分で下りて、戻ってこい」
 三蔵は大木に背を向けると、寺院への道を辿りだした。

 しんと静まりかえった寺院の中。
 既に就寝時刻もすぎ、ほとんどの灯りが落とされた暗い建物の中を、窓から差し込む月明かりだけを頼りに悟空は歩いていた。
 三蔵が悪いのではないことはわかっていた。だが。
 悟空は厨房に入ると、適当にその辺を漁って食べ物を見つけだし、手近にあった椅子に腰かけた。
 せっかく二人だけでのんびりと過ごせると思っていたのに。しかも、急な仕事が入って駄目になるということが三回も繰り返されている。
 仕事だから仕方ない。
 わかってはいるが、その一言だけですまされる問題ではないと思う。
 何だか意地悪されているとか、わざとやっているとか、そんなことまで考えてしまう。
 それとも。
 食べ物を口に運んでいた悟空の手が止まった。
 本当にわざとなのだろうか。
 一緒にいたくなくて、わざと仕事を入れているのだろうか。
「すんだのか?」
 と、突然、声が響いた。間違えるはずのない、この声。
 悟空はぱっと振り返った。戸口に三蔵が立っていた。
「さんぞ……」
「逃げるな」
 椅子から腰を浮かした悟空に三蔵は声をかけた。
「三蔵、いつからそこに……?」
「お前の行動なんぞ、お見通しだ。食い終わるまで待っててやった……」
 悟空のすぐ前まで来た三蔵が訝しげな顔をした。手を伸ばして、悟空の頬に触れる。
「泣いていたのか?」
 我に返ったかのように悟空は身を引いて、三蔵の手の届かないところまで後退した。その行動に、反射的に三蔵はむっとした。
「触らないで、って言った」
 呟くように悟空が言う。前と同じ台詞だったが、口調がまるで違う。
 三蔵の表情が微かに動き、たぶん他人が見てもわからないだろうが、心配そうな様子になった。
「何かあったのか?」
 悟空は俯いた。しばらく沈黙していたが、やがてぽつりと言った。
「三蔵は、俺と一緒にいるの、嫌? 俺のこと、嫌い?」
「いきなり何だ?」
「だって、約束、守ってくれない……」
 頼りなげな口調に、また余計なことを考えたのだと三蔵は悟った。一歩、前に踏み出し、手を伸ばして有無も言わせずに、華奢な体を腕の中に閉じ込めた。
「や……」
 身を捩って逃げようとするのを押さえつけ、ほとんど強引に口づけた。
 悟空は大きく目を見開き硬直したが、やがて、ゆっくりと目を閉じて三蔵に身を任せるように体の力を抜いていった。
 緩やかに優しく、まるであやすかのようなキスが繰り返される。
「嫌いで、こんなことをすると思うのか?」
 唇を離し、崩れるように倒れかかった悟空を支えるように引き寄せて、三蔵は耳元で囁いた。
 キスで敏感になっているところに、三蔵の息がかかり、ピクリと悟空が身を竦めた。その様子に三蔵は笑みを浮かべると、目の前にある耳に舌を這わせた。
「や……ん……」
 途端に甘い声が漏れる。
 悟空は腕を突っ張って三蔵を押しのけようとするが、力が入らないらしく、その抵抗は弱々しい。
「やだ……、約束……」
 それでももがきつつ、悟空が言う。
 約束、という言葉に、三蔵の動きが止まった。悟空の方に傾けていた顔を起こす。
「お前、それ、逆効果」
 甘く溶けた、まるで蜂蜜のような色の瞳に涙が浮かべ、軽く睨むように見上げてくる悟空の顔を見て、三蔵が苦笑を漏らした。
 そんな風に怒っても、余計に三蔵の熱を煽るだけだ。
 三蔵は悟空の頤に手をかけた。
「悪かった」
 悟空が驚きの表情を浮かべる。まさに、鳩が豆鉄砲をくらったような表情だ。
「美味いモンなら、明日連れてってやるよ。それならばいいだろう?」
 悟空の顔に笑みが浮かんできた。花がほころぶような、綺麗な笑顔。
 三蔵はそれを見て満足そうな顔をすると、悟空の唇に軽くキスを落とした。
「但し、メシ食ったらすぐに帰るぞ。仕事は無くなりはしねぇんだから」
「手伝う」
 三蔵の首に手を回して悟空が言う。
「それはやめとけ」
「何で」
 ぷぅっと、悟空が頬を膨らませた。
「余計な手間が増えるだけだ。それより」
 三蔵は更に悟空を引き寄せた。
「仕事の後に労わってくれた方がいい」
 三蔵の言葉に、悟空は難しい顔をしたが、少し考えてその意味がわかったらしく、いきなり耳まで赤くなった。
「さ、さんぞ、それって……」
「こういうことだ」
 三蔵の唇が悟空の唇に重なってきた。すぐにキスは深くなる。
 夜のしじまを破るのは、時折漏れる甘い吐息だけ。後は全て、闇の中に隠されていった。

 翌日の午後。
 八戒がノックの音に答えてドアを開けると、そこには満面の笑みを浮かべた悟空と、相変わらずの仏頂面をした三蔵がいた。
「八戒、これ、お土産」
 悟空が紙袋を差し出した。紙袋には、最近、長安の町で人気の飲食店の名前が入っていた。
「どうしたんですか、これ?」
「三蔵が、メシ、食いに連れてってくれたの」
「じゃあ、仲直りしたんですね」
「うん」
 悟空は上機嫌で頷いた。まるで大安売りのように、にこにこと笑顔を振りまいている。
「よっぽど、美味いモン、食わせてもらったんだな」
 悟浄も戸口にと出てきた。
「しかし、あんなに怒っていたのに、食いモンで機嫌が直るとは。お手軽でいいね、小猿ちゃんは」
「なんだとぉ!」
 すかさずからかう悟浄に、悟空は拳を突き出した。もちろん本気ではなく、お互い冗談まじりのじゃれあいだ。ひょいと悟浄はその拳を避けた。
 前のめりになった悟空の長い髪が揺れて、一瞬だけ、うなじが現れる。
 悟浄の目が軽く見開かれた。
 一瞬で充分だった。それは、悟浄の得意分野だったから。
 そっと同居人を窺うと、どうやら紙袋の中身に気をとられているようで、気づいた気配はない。もちろん、当の小猿ちゃんも。
 ふと、視線をあげると三蔵と目が合った。三蔵の唇の端が、それとわからないくらいにあがった。悟浄は顔をしかめた。
 やっぱりこいつか、と思う。
 悟空のうなじに残っている赤いアト。
「寄っていかないんですか?」
 八戒の声に悟浄は視線を悟空のほうに戻した。悟空は手を振っていた。
「うん。三蔵、まだ仕事があるんだって。一緒に帰りたいから、俺も帰る」
 そう言うと、悟空と三蔵は、森の中の道を寺院の方へと引き返していく。じゃれつくようにまとわりつく悟空と、少し邪険な三蔵。いつもと何ら変わりはない。
 ということにしておこう、と悟浄は思った。だが。
「どうかしたか?」
 家の中に入ろうとして、何か考え込んでいるような八戒に気づき、声をかけた。
「いえ、なんか違和感があるな、と思っていたんですけど」
 二人が消えていった方角を見ながら八戒が答えた。
「悟空、長袖でしたよね。今日も暑いのに」
 あぁ、それは。
 悟浄はこっそりとため息をついた。
 たぶん、アレひとつではないのだろう、アトは。
「腹出して寝てたりとかして、風邪でもひいたんじゃねぇ? 夏風邪はなんとかがひくっていうし」
 感謝しろよ、と思いつつ、悟浄はフォローの言葉を紡ぎだす。
 八戒は悟空に甘い。
 別に金髪の高僧が八戒にどんな目に合わされようが知ったことじゃないが、機嫌の悪い八戒に八つ当たりされるのは避けたかった。
「まぁ、そうかもしれませんけど……」
「それより、何をもらったんだ?」
 いまひとつ腑に落ちないような表情を浮かべている八戒の気を逸らすかのように悟浄は言った。
「点心セットですよ。今日の夕飯にしましょうか」
 そう言いつつ、八戒は家の中に引き返して台所に向かう。
 穏便にバレてくれるといいんだがな。
 最高僧さまのためではなく、自分のために悟浄は切に願った。 

「三蔵、これ、暑い」
 悟空はそう言うと、上着のボタンをはずしにかかった。
「お前……」
「もう人なんていないからいいでしょ。寺院につく頃にまた着るし」
 ファサッと音がして、上着が滑り落ち、下からタンクトップが現れる。
 そして、腕といい胸元といい、つけられた赤いアト。
「いい眺め」
 三蔵の言葉に悟空が上着をかき抱いた。
「三蔵がやったんだろ。コレのせいで薄着できないから、外に遊びに行けないし。もう、こんなにつけるなよな」
「無理」
 三蔵は手を伸ばして悟空の腕を捕まえた。
「第一、昨日はお前が離れなかったんだろ?」
「な、な、な……!」
 赤くなる悟空を見やって面白そうに笑うと、三蔵は悟空の腕にと唇を寄せた。
「あっ!」
 甘い痺れに悟空の口から思わず声が漏れる。
 そんな悟空を、どこか満足げに見つめると、三蔵は意地悪そうな笑いを浮かべたまま足を進める。
「行くぞ」
 悟空は顔をしかめて、新たについたアトを見ていたが、パタパタと三蔵の後を追っていく。手を伸ばして、腕を絡めた。
「悟空……?」
「離さ……ないでね……」
 顔を俯けて、ほとんど聞きとれないくらい小さな声で悟空は囁いた。
 と、頭に手が置かれた。ぽんぽんと軽く、安心させるかのように叩かれた。
 見上げると、綺麗な紫暗の瞳に優しい色が浮かんでいるのがわかった。
「大好き、三蔵」
 悟空はそう囁くと、三蔵の方に頭を預けた。
 三蔵は何も答えなかったが、悟空の手を振り払うこともなく、そのまま歩を進めていく。
 それだけで充分だった。
 たぶん、こんなことをしても、振り払われずにすむのは自分だけだから。
 悟空は、笑みを浮かべるとぎゅっと三蔵にしがみついた。
 ずっと一緒にいる。
 そんな想いを形にするかのように。

(C)水桜月亭/宝厨まりえ



花淋さま
 このたびは、こんな拙いお話を快く受け取っていただきありがとうございます。
 …しかし、「初めまして。ください」といきなり最初のご挨拶のあとに作品を強奪していったうえに、頼まれもしないのに「あげる」とお話を押し付けていくなんて、なんだかよく考えると、失礼極まりないですよね、私。(よく考える前に気付きなさい>自分)
 呆れずに、は無理かもしれませんが、これからもよろしくお付き合いくださいませ。切に、お願いいたします。

まりえ拝




 「水桜月亭」宝厨まりえ様のサイトで7000hitのキリ番を、幸運にもGetしまして…
 「拗ねた悟空に困る三蔵サマ」というリクエストをしたところ、こんなにも素敵でウットリするお話を書いていただきました♪
 もう、悟空が可愛くて可愛くて///このまま攫ってしまいたくなる程です。
 そして、なんとこれとは別に、更にラブ度を増した同じテーマの作品が、まりえ様のサイトにございます。そちらもとても素敵なお話です!絶対に読むべきです(力)
 まりえ様、この度は私のリクエストを快諾していただき、本当にありがとうございました。
 コチラこそ、末永いお付き合いをお願いいたします。
 これからの、水桜月亭とまりえ様のご活躍を、心からお祈りいたします。

花淋拝


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