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一体自分は、どうしてしまったんだろう。
三蔵は、かなり真剣に悩んでいた。
「離せ…」
「ヤダッ」
「おい…」
「絶対、離さないっ!」
赤子にも等しい非力な手。
指の先が真っ白になるほど、力強く己の法衣を握る小さな手。
振りほどく事など、造作も無いはずなのに。
「猿…」
一段と低くなった声に、目下の薄い肩がビクンと揺れたが、
「や、やだ…離さないかんな」
上ずった声で、それでも幼子は頑として譲らなかった。
溜息を一つ。
また、肩が震えた。
「悟空…」
「だって…だって…」
大きな金瞳に盛り上がった透明な雫。思わず息を詰まらせたが、けれど三蔵は震える肩に手を置き、ゆっくりと自ら膝を折った。
「悟空、出掛けるのは遊びじゃねえんだ。それは、解るな」
努めて穏やかな声音を作る。彼にしては大変な作業だ。
「俺とお前がここで暮らす以上、相応の代価…っても、解らねぇか。俺には、しなきゃならん仕事がある」
「…ぅん」
「別にお前を置いて、ここから消えるわけじゃねえ。俺の帰る場所は、ここだ」
そう言って、三蔵の手が胡桃色の頭を撫でる。
その途端、ポロリと丸い雫が落ちた。
「さん、ぞぉ」
「留守番できるな」
金瞳を覗き込んだ紫暗が、優しげに笑んだ。
「ん、俺、ちゃんと待ってる…待ってるから、早く帰って来て」
堪らず悟空は彼の首に抱きついた。それを抱き返しながら、
「解ってる」
胡桃色の頭を二度、軽く叩いて共に立ち上がった。
「いってらっしゃい」
「ああ」
涙の筋を残した顔が小さく笑う。その頭を撫でて、三蔵は部屋を後にした。
「涌いてんな…」
幼子に振り回される己に苦く笑う。
それ以上にそんな生活がこの頃では、満更ではないと思い始めている自分が不思議でならない。
「ザマぁねえな…」
呟いたその顔が、けれど微かに笑っていたのを、頭上の太陽だけが静かに見下ろしていた。
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