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 身動きの出来ない身体で、視界の端に僅かに捕らえた姿は以前となんら変わりなくて、耳に馴染んだその声も久しぶりに聞けば新鮮で。
 ああ、記憶の最後にあった血塗れたその姿が、塗り替えられていく。

 みっともない所を見せて、見られて…そうやって、旅を続けてきたのだ。

(悟空…)
「三蔵」
 久しぶりに、名を呼ばれた。
「ちょっとばかし、そこで待ってろよ」
 振り返った顔。
「俺は三蔵に言いてぇ事、すんげぇいっぱいあんだぞ。だから全部、聞いてもらうかんな」
 そう言って笑った猿に、思わずつられて苦く笑う。
 
 何一つ変わらない。それが悟空の強さだ。

 その途端、喉の奥につかえていたものが、あっさりと落ちて、
「悟空…―――気ぃ抜くんじゃ、ねぇぞ」
 掛けた言葉に、悟空の肩が揺れた。
「…分かってる」
 返ってきたのは微かに震えた声。
「何だ三蔵サマ、俺には無し?」
「死ね、河童」
「あー、そーかよっ」
「相変わらずですね」
 悟浄の悪態も、八戒の呆れた笑顔も、一つも変わらない。

 当たり前だ
 四人で旅をしてきた
 そして…
 これからも、四人で旅を続ける

「話でも何でも聞いてやる…さっさと、片付けて来い」
 悟空の後姿を見つめ、きっと、俺は笑っていた。




――――何処へも行きゃしねえよ

 あの日、三蔵はそう言ったのに…
 痛みを感じる間もなく暗闇に叩き落されて、やっと戻ってこられたと思ったら、何処にも居ないじゃないか。
 今度ばかりは、離れている事が凄く不安だった。だから俺は、いっぱい考えた。俺なりに、一生懸命考えた。今までの事これからの事、俺と三蔵の事。
 その中で出会った人々、そして一人の少女に俺は自分と同じ血を感じた。己を信じ、仲間を信じ、その生き方に誇りを持って、けれど儚く散ってしまった少女。
 誇りのために自ら死を選んだ少女。
 その死は、今までどこか宙ぶらりんだった俺の目を覚まさせるには十分で、俺は「俺に誓い」を立てた。

――――俺は死なない
 
 自分を信じて仲間を信じて、生き抜いてやる。
 三蔵が西を目指すから付いて行くんじゃない。俺が、俺自身の意思で「西を目指す」んだ。
 みっともなくても、カッコ悪くても、地べたに這いつくばってでも生き延びてやる。
 俺たちは四人で西を目指すんだ。


「悟空…」
 久しぶりに名前を呼んでくれたその声に、少しだけ鼻の奥が熱くなった。
「待ってろよ三蔵。俺は三蔵に言いたい事も、聞きたい事も、すんげぇいっぱいあんだかんな」
 如意棒を握り締め、しっかりと前を見据える。背中から感じる確かな温もりは、いつだって俺を強くする。

 そして、この戦いが終わったら、一番に三蔵に聞きたい。

――――ねえ三蔵…俺の声は、ちゃんと三蔵に届いてた?




copyright(c)karing/Reincarnation_2008


ブログの小話に悟空編を追加。
やっと再会ですよ。
でもタイトルは「再開」(笑)