蝉時雨の葉桜並木を抜けると、今日はなんだか静かだと二人の訪問者は首をかしげ、部屋を訪れて、ああなるほど。と顔を見合わせた。 あついつめたい 「八戒、悟浄」 「よお」 「こんにちは、お邪魔でしたね」 扉の前から顔を出して、その枕元とベッドの住人を交互に見やった。 「ううん、大丈夫。今は眠ってるから」 「風邪ですか?」 そっと足音を忍ばせて、寝室から出てきた悟空に八戒が聞いた。 「うん…ここんところ、凄く暑かっただろ」 空調の効いた部屋と暑い外気に、体温調整がうまく働かないようだと、悟空がため息を吐いた。 「そんなに冷えすぎてないんだけど、やっぱ身体動かす事少ないから」 「まあ、旅してた頃に比べりゃな」 「身体が鈍るのも無理ないですよね」 「うん…」 三蔵の強さを知っていても、やはり不安は拭えないのだろう。目の前の悟空は、すっかり気を落としている。 「三蔵は大丈夫ですよ。悟空の方こそ、元気を出さないと」 「そうだぜ。お前がそんなんじゃぁ、三蔵の方が気にすんだろ」 そう言って悟浄がその深茶の頭をぽんぽんと叩くと、 「そうだよな…」 漸く悟空の顔に小さな笑みが戻った。そんな悟空に八戒は持ってきた包みを差し出し、 「お見舞いになっちゃいましたね」 「何?」 「桃のソルベです。たくさん貰って二人ではとても食べきれないので、三蔵も少しなら食べられるでしょう」 「わぁ、ありがとう八戒」 悟空はそれを抱きしめるように受け取った。 「んじゃ、俺ら帰るわ」 「三蔵が元気になったら、四人でご飯でも食べましょうね」 「八戒…悟浄…」 「お前もあんま、無理すんなよ」 肩を叩いた悟浄の大きな手から流れ込んでくる柔らかな気に、悟空も素直に頷いた。 「うん。ホントに、ホントにありがとな!八戒、悟浄」 「気にすんなって」 「お大事に」 僅かな滞在で帰っていく二人の仲間を、悟空は窓から見えなくなるまで見送っていた。 静かに近寄ったつもりが三蔵の紫暗と目が合って、僅かに慌てた悟空に、 「あいつらは帰ったのか」 かすれた声で聞いた。 「うん、三蔵が治ったら四人で飯喰おうって」 「そうか…」 気だるそうな返事に、悟空の金瞳が曇っていく。 「そんな顔するな…」 「うん…」 「大丈夫だ」 「うん…」 布団の中から伸びた手が悟空の頬を包み込む。 「笑えよ…悟空」 「三蔵…」 頬から伝わる熱は常よりも高いけれど、悟空は安心したようにホゥと息を吐いた。 「八戒がね、桃のソルベを持ってきてくれたんだ。食べる?」 「そうだな」 「じゃ、用意してくるね」 「ああ」 小走りに部屋を出る悟空の後姿を、三蔵の温和な瞳が見つめていた。 「美味しい」 「ああ」 ガラスの器に盛られた薄桃色の氷菓に、焼け付いていた喉が潤されていく。霞が掛かっていた頭もスッキリとして、先ほどより三蔵の声にも張りが出てきた。 「お前、ちゃんと喰ってんだろうな」 「大丈夫だよ。俺の心配より、自分の心配しろよな」 「お前の大丈夫は、当てになんねぇんだよ。昔っから」 今までの苦い経験の数々が、三蔵の頭を掠めていく。 「もう、前みたいな無茶しねぇって」 「どうだかな」 「何だよ。そんなに信用ねぇのかよ、俺は」 年甲斐もなく頬を膨らませる悟空に、三蔵がふんと鼻を鳴らす。 「もう、それ喰ったら、寝ろよな」 早く治さねぇと、愁由たちも困るんだから。と、付け加えて、悟空は溶けてしまった氷枕を持って立ち上がる。 その背中に本当に小さな、悟空ですらうっかりすれば聞き逃してしまいそうなほどの小さな呟きが聞こえて、一瞬足が止まりかけて、けれど結局そのまま寝室を後にする。 部屋の外で、悟空が壁を背にズルズルと座り込んで居るのを知ってか知らずか、三蔵は大人しくその身を横たえ目を閉じた、微かに口の端を上げたまま。 「なんだよそれ、反則だよ三蔵…あんな事言うなんて」 耳まで真っ赤にしながら、ショックで立ち上がれない悟空は、座り込んだまま悔し紛れの一言を漏らしていた。 ―――これでも…頼りにしてるんだがな、俺は copyright(C)Reincarnation_karing/2008
残暑(だよな、お盆だから)お見舞い申し上げます。 夏風邪ひいて、鼻水ズルズルです。だから風邪ネタ(とっても安易デス) この頃、全然freeやってなかったので、持ち帰りオッケという事で… 皆様も、夏風邪にはご注意を!! 花淋拝
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