Happy Holiday


 ふわふわと何かが頬に触れる。
 暖かくて、くすぐったくて…
 気持ちがいいけど、もう少し…もうちょっと、眠っていたい―――

「――…くぅ…ご、くう…悟空」
 ああ、誰かが呼んでる。
「悟空…起きろ」
 ん、ごめん…もうちょっとだけ。
「悟空…寝坊だぞ」
 え?ええーっ?!
 勢いよく身を起こした悟空は、枕もとの時計を見て声にならない悲鳴を上げた。そして、
「わーっ!ごめん三蔵、朝飯…は、間に合わない、から。コーヒー!そうだコーヒー飲んで」
「おい」
 上掛けをはいでベッドを降りようとする悟空の首根っこを捕まえて、三蔵はコロンとその身をまた転がす。
「三蔵どいて」
「落ち着け悟空」
「だって、三蔵。仕事…」
「今日は休みだ」
「へ?」
「休・み・だ」
「休…み?」
 悟空を組み敷いた三蔵の瞳が「そうだ」と言うようにすっと細まる。途端に悟空の身体から力が抜ける。
「俺、聞いてないよ」
 置いてけぼりを食ったような顔をして、そんな事を言う悟空を見ながら、
「まあ、俺がその話をしたときお前、夢ん中に半分頭突っ込んでたからな」
 と三蔵は楽しそうに話す。
「ひでぇ、三蔵ぉ」
 悟空の情けない抗議の声に、三蔵はとうとう声を上げて笑い出した。
「も、なんだよ!三蔵の馬鹿」
 へそを曲げてぷいと横を向いた悟空を、三蔵はのしかかるように抱きしめると、その耳元へ口唇を寄せた。
「怒るな…今日は一日、お前に付き合ってやるから」
 目じりに頬に幾度もキスを送られて、悟空は真っ赤になりながら潤んだ金瞳を三蔵に向け、
「ホントに?俺に付き合ってくれる」
「ああ」
 膨れていた顔がぱぁっと花開くように笑顔になった。


□ □ □


「おい、まだ買うのか」
「そうだよ」
 買い物袋を抱え不機嫌な声を上げる三蔵を横目に、悟空は楽しそうに鼻歌交じりで歩き続ける。
「今日は一日、俺に付き合ってくれるんだろ」
 そう言われてしまえば、三蔵に反論の余地は無い。渋々といったていで悟空の後へ続いた。
「こんちは、おばちゃん」
「おや悟空、いらっしゃい…ま、まぁ三蔵様!」
 わたわたと自分の身なりを直す店屋の女将に、今日は休みだから大丈夫だと告げたのは悟空。よくよく見れば、三蔵の手は荷物を抱えている。
 三蔵法師様が荷物持ちなんてと、顔を赤くしたり青くしたりと忙しい女将を横に、悟空は必要なものを買い揃えていく。
「ありがと、おばちゃん。またな」
「あ、あいよ…いつでもおいで悟空――…と、三蔵様も」
「じゃな」
 笑顔で手を上げた悟空と黙ってついて行く三蔵。そんな二人の後姿を、立ち寄った店の主人たちが一様に同じ言葉で見送った事など、二人は知る由もなかった。
「分からないもんだねえ、あの二人は」



「さ、これで終わり。三蔵帰ろう」
 最後の店で売り子から品物を受け取って振り返った悟空は、通りの先をじっと見つめている三蔵に倣って、その視線を通りへと向けた。
「誰か居た?」
「いや…」
 悟空の視線を遮るように空いた腕を悟空の肩へ回し、「帰るぞ」と歩き出す。悟空もそのまま三蔵と歩き出した。



「今日は、ありがとな三蔵」
 家に戻ると、三蔵はソファへ悟空はキッチンへ。食器の音とコーヒーの芳香、そしていつもの仄苦い紫煙。
 二人分のカップを持って三蔵の隣へ腰を下ろすと、悟空は深茶の頭を三蔵の肩に乗せた。
「今日の晩飯、何にしよっか」
 悟空の問いかけに三蔵は煙草を押し消すと、その耳元へ一言二言囁きかける。と、悟空の頬にさっと朱が入り、
「そ、それは…飯喰った後で、な」
 呟くような返事に、すかさず三蔵が「楽しみにしてるぞ」などと答えるものだから、その赤をますます濃い色に変えて俯いてしまった。
 そんな悟空の髪を三蔵の手が優しく撫でていく。心地よさに目を閉じながら、「疲れた?」と聞けば、「いいや」と返った返事に、
「じゃあ、楽しかった?」
 大きな金瞳を真っ直ぐ三蔵に向け、それから歳不相応に首をかしげた。
 出会った頃か変わらずに綺麗に光る琥珀の瞳を見つめ、
「そうだな…」
 三蔵は穏やかな笑みを浮かべて、そっと悟空を引き寄せると、小さな口唇へ自分のそれを重ね合わせた。
「お前が居るから―――…毎日が、楽しい」



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ビバ!「三空day」
旅が終わって二人暮らしを始めたとある休日。えと、「おはなのおはなし#16」の続きデス。
いつまでたっても、新婚気分のままな二人です(笑)
下にオマケ

花淋拝



〜オマケ〜

「え?悟空たちに会ったんですか?」
 頼んだ荷物を受け取りながら、八戒は悟浄の顔を見て、おやという顔をした。
「ま、会ったというか…見たというか」
 歯切れの悪い悟浄の言葉に、「声、掛けなかったんですか?」と言ってはみたものの、八戒は何となく先の結果が頭の中で形を成し始めているのを自覚した。かくして、
「だってよぉ」
 と始まった悟浄の説明に、もはや出るのは苦笑いのみ。
「声掛けようと思って一歩踏み出した途端、「てめえ声なんか掛けたら、どうなるか分かってんだろうなあ」オーラ、バリバリ出しやがんだぜ、三蔵サマ」
 ハイライトを咥えお手上げのポーズをとる相方に、はははと乾いた笑いを向けて、
「変わりませんねえ、あの二人は」
 分かりきってはいても、口に出さずには居られない八戒であった。


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