Step up



 三蔵と俺が、幼馴染から前進して。でも、それを楽しんでる間もなく秋が過ぎて、クリスマスはかろう時で覚えてる。
 受験でどこも連れてってやれないからって、一日だけ俺の好きにさせてくれた。もちろん勉強も免除。
 イブの日から三蔵の部屋に押しかけて、夜はその…あの…三蔵が凄く優しかった。その所為ばかりじゃないけど、25日はずっと、三蔵の傍にくっ付いて、珍しく「他にしたい事ねえのか」って、三蔵が聞いたくらいだ。
 それからは、マジでキツイ日が続いた。
 お正月に貰ったのは、お年玉じゃなくて問題集だったしさ。でもそのお陰で、信じられないくらい成績は上がった。
「俺が教えてんだ、当たり前だろ」
 て、三蔵に小突かれたけど。
 試験の当日、おでこにキスをくれて「大丈夫だ」って、言ってくれた三蔵。その一言で、今までの緊張が嘘みたいに無くなって、自分でもビックリするくらい落ち着いて、問題を解く事が出来たんだ。
 え?結果。
 決まってんじゃん!最高の個人授業を受けてたんだよ、俺。
 合格通知を持って、三蔵の部屋へ駆け込んだ。
「三蔵!やったよ、合格だ!」
 ほとんどタックルに近い勢いで、三蔵に飛びつくと、いつもなら丸めた新聞が振り下ろされるのに、今日は暖かい手と飛び切りの紫水晶の瞳が、俺を見下ろしていた。
「がんばったな…悟空」
 その途端、三蔵の顔がぼやけて見えなくなった。
「さんぞ…」
 嬉しくて、合格した事より、三蔵が褒めてくれた事、喜んでくれた事が、嬉しくて。俺はただ三蔵に抱きついて泣いた。

 それから ————
 卒業式を終えた次の日、三蔵に呼び出された俺は部屋じゃなくて、よく二人で通った喫茶店に居た。
「悟空、手え出せ」
 席に着いた途端にその言葉。話についていけなくて、俺が首を傾げると、三蔵はもう一度、同じ事を言った。
「うん…」
 言われるまま差し出した手は、ちょっと震えていたかもしれない。
 その手のひらに、鍵が一つ。
「鍵?どこの?」
「俺の部屋のだ」
「三蔵の?だって、俺持ってるよ」
 ポケットに、三蔵とお揃いのキーホルダーが付いた、合鍵。俺の一番の宝物。
「あの部屋のじゃねえ、新しいとこのだ」
「新しいって、三蔵引っ越すの?」
 そんな事何も聞いてない。
 驚くより先に悲しくなって、三蔵の顔が見れなくなった。
「引越しは来週だ、それまでに…荷物まとめとけよ」
「え?」
 何を言われたのか分からなくて、俺はきっと随分間抜けな顔をしていたと思う。三蔵は苦笑いを浮かべて、
「二人で住むには、狭いからな今のとこは」
 なんとなく三蔵の、目の横が赤く見えるのは、俺の気のせいだったのかな。
「高校も卒業したんだ、いいだろ。俺んとこ来い」
「い…いいの?ホントに…俺で?」
 信じられないよ、だって三蔵が…俺と一緒に。
「嫌なら、最初から鍵なんて渡さねえ」
「ありがと…嬉しい、すげぇ…夢みたいだ」
 手のひらの鍵を握り締めて、その手にポツリと涙が落ちた。
 ギュッと目を瞑って、それでも流れてしまった涙は、三蔵の優しい手に拭われる。
「今まで待ったんだ。離さねえからな」
「うん……三蔵…大好き」
「知ってる」
 
 桜の花がほころび始める頃、俺と三蔵の新しい生活が、スタートした。







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