俺は仏教徒だ。と声に出せたら…
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数日前から、寝室の隅にある場違いな代物。それを見るに付け、満面の笑みを浮かべる養い子に、三蔵はずっと言えないでいた言葉を、やはり今日も飲み込んだ。
「三蔵、どうかした?」
寝室の入り口で立ち尽くす自分の前で首を傾げる悟空に、
「別に」
勤めて素っ気無く応えてから、懐を探りながら窓辺のカウチにどかりと腰を下ろした。
斜め前にはチカチカと色とりどりの灯りが明滅するクリスマスツリー。毎年、寺院の中のここだけでひっそりと行われる、聖夜の祭は明日に迫っている。けれど、
(明日は仕事だ)
この一言が、いまだ三蔵の口からは発せられず、吐き出すのは紫煙に隠したため息ばかり。
そんな三蔵の横顔を眺めながら、
「それ吸ったら、風呂入ってきてな―――明日、早いんだろ」
その悟空の言葉に、滅多に見られない驚いた三蔵の顔。
「悟空…お前」
「たまたま…だよ。この前、坊さんたちが話してるの聞いちゃったから」
そう言って、三蔵の横へ座る。
「俺なら大丈夫だよ。そりゃ、クリスマスに三蔵がいないのは寂しいけど、いつだって一緒に居られるんだから」
それに、もうそんなに子供じゃない。と続けた悟空の胡桃色の頭を、三蔵は黙って引き寄せた。
一人にするなとベソをかく子供は、いつの間にか我慢を覚え、三蔵の立場も自分の立場も理解するようになった。
「落ち着いたら、飯でも喰いに行くか」
「うん―――あ、でもね…」
「何だ」
「今日は――…一緒に寝ても、いい?」
と聞いてくる上目遣いの悟空を見て、三蔵が僅かに口の端を上げる。
「子供じゃねぇんだろ」
「むぅ〜」
幼子のように口唇を尖らせる悟空をおかしそうに眺め、煙草をもみ消すと三蔵は立ち上がり、
「先にベッドへ入ってろ」
「うん」
もそもそと布団へ潜り込む悟空を後ろに湯殿へ向かった。
「悟空?」
それほど長湯ではなかったはずなのに、寝室へ戻ってくると養い子は既に夢の世界へ旅立っていた。
(一日中野山駆け回ってりゃ無理ねえか…)
日付が変わるまであと僅か。明日の出発も、きっと目覚める前になるはず。
「泣かれるのも厄介だが…」
実は笑って見送られるのも、何となく複雑で癪に障る。あまりの矛盾に思わず喉が鳴った。
「湧いてんな」
らしくないと頭を振って、起こさないようにそっとその身を隣へ滑り込ませた。途端、
まるで図っていたかのように悟空が胸に擦り寄る。
「まだガキじゃねえか」
緩んだ己の口元を実感しながら、三蔵は夜着の襟元から覗く首筋へゆっくりと口唇を寄せた。
小さく咲いた花弁を満足そうに指で撫でると、温もりを抱き寄せて目を閉じる。
聖夜を祝う気は無いけれど、
「ケーキくらいは買ってやるよ」
微かに呟いた声が夢の中まで届いたかどうかは解らないけれど、その時あどけない寝顔の悟空がふわりと笑った。
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