お花畑で一休み



 暫く、人払いだ――――

 何故あんな事を言ったのか。
 理由は分かっている。猿が我が侭を言わないからだ。
 寂しそうな顔をするくせに、けして我が侭を言おうとしない。それが気に入らない。
 聞き分けの無い事を言えば、ハリセンで黙らせる。それでも、出来るやり繰りは傍仕えにさせるつもりでいるのに、我が侭を言わなければ、それすらも出来ない。
「どうせなら、もっと別の事で気ぃ使えってんだ」
 一人呟きながら、けもの道を進んでいけば、先程から聞こえていた声が、はっきりと音になって耳に届く。
 この頃のお気に入りだという場所は、たんぽぽとシロツメクサの園だった。
「あの雲、うまそーだな」
 なんとも猿らしい感想に、思わず笑いが漏れる。振り向いた悟空は、大きな金瞳を更に大きくして俺を見ていた。
「昼飯をあれだけ喰っておきながら、まだ足りねえのか」
 言いながら隣へ腰を下ろす。猿の奴はまだ固まったままだが、構わずにゴロリと横になると、草深い日向の匂いがした。
「…しご、とは」
 漸く発した声は、微かに震えていた。
「休憩だ」
 一言告げてそのまま目を閉じた。
 鳥のさえずりと気まぐれな風の音。自然が奏でる旋律だけが、俺たちを包んでいた。
「今日、いい天気だな」
 未だ、躊躇いがちな猿の声。
「あったかくて、気持ちいい」
「ああ」
「綺麗だろここ。俺のお気に入りなんだ」
「ああ」
 ったく、何、気ぃ使ってんだか。
 横から伝わる固い空気に目を開けて、尚も言葉を続けようとした悟空に、
「猿―――俺は昼寝に来てんだ。お前も寝ろ」
 そうしてまた、目を閉じた。
 暫く経って「うん」と小さな返事が聞こえ、衣擦れの音の後辺りは再び、自然の音だけになった。


「世話のかかる猿」
 うす目を開けると、僅かに離れた場所で手を伸ばして俺の法衣を、掴んで眠る悟空の顔。
 仕方なく身を起こして深茶の頭の下に腕を滑り込ませ、日向くさい細い身体を懐に収める。モソリと身動いて、法衣の胸元を握り直した悟空の寝顔に浮ぶ安らいだ笑みに、思わず甘ったるい気分になった。
「さぁ…んぞ」
 一体、どんな夢を見ているのやら。
 穏やかで暖かい風が頬を撫でると、張り詰めていた神経が緩んでいく。
 こんな風に肩の力を抜ける日が来るなど、数年前まで想像すら出来なかった。
「チビで大喰らいの、泣き虫な寂しがりや…大した拾いモンだ」
 何となく自分が笑っているのが分かって、鼻を鳴らしたけれど。
「猿も、たまには役に立つ」
 一人呟いて、小さな身体を抱え直し、忍び寄る微睡みに身を任せた。

 夢と現の狭間。
 俺の隣で悟空は、やはり笑っていた。



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たとえば、こんな時〜愁由語り〜
の続きというか、サイドストーリーというか。
第三者から見た三空と、三蔵と悟空しか出てこないコテコテの三空。どちらが好みなんだろう?
ふむ、この頃の傾向として、どうも一人称が多いです。。。(深い意味は無いのだけど)