聖 域



「あん―――さ……ん、ぞ…ぁふ」
 抱え上げた細い身体。人の三倍…五倍以上は喰ってるくせに、燃費の悪いしなやかな肢体。
「ア、あ……ぁぁっ―――も、さん…ぞ」
 突き上げて堕として、啼かせて求めさせて、その全てが自分に向けられたのを確かめて。
 与えた。
「あ―――アあぁぁぁっ」
 背後から抱きしめていた俺の腕の中で、絶頂の余韻に喘ぐその身を折れてしまいそうなほど、強く抱えなす。
「さん…ぞ?」
 俺を呼んだ声に、一瞬前の淫靡さは欠片もなかった。
「三蔵…どうしたの?」
 戸惑いと少しの不安が滲む声。それに被さるように窓を叩く雨音。
 一人の時よりはいくらかマシになったものの、雨の夜は波立つ心情に神経が苛立つ。その所為で悟空を傷つけた事も、度々あった。今でも…雨の夜は労わるような抱き方を、していないかもしれない。
 熱の篭った身体を抱きながら、俺はぼんやりとそんな事を思っていた。
「な、なぁ…さんぞぉ」
 腕の中の小猿がしきりにもじもじと俺を呼ぶ。
「なんだ」
 仕方なく返事をしてやれば、俯いたまま
「あの…―――ぬ、抜いて…」
 俺たちは未だ、繋がったままだった。

 ゆっくりと軽い身体を持ち上げてやれば、息を詰めて強張る下肢に、
「力抜け、そんなんじゃ抜けねえ」
 そのまま落としてやろうか。
 不埒な考えが浮かばないでもなかったが、結局は自身から解放した。
「ん…」
 詰めていた息を吐き出し、横抱きにされた悟空が擦り寄ってくる。こんな仕草は拾った頃のままだな。
 人肌を恋しがる―――
 それはまるで、五百年の孤独を埋めるように。
「三蔵…どうかした?」
 そう言って俺を見上げる金の瞳は、無垢の輝き。穢れず、曇る事を知らない。逸らされる事なく自分を見つめるそれは、時として俺の心を執拗に掻き乱した。
 泣く事も、笑う事も、怒る事も。全ての感情を飾る事無く曝け出す。自分にはけして出来ない事だ。
 
 一人は寂しいと泣く事も。
 二人は楽しいと笑う事も。

 俺は、言葉にも態度にも出せはしない。
「三蔵…どうしたんだよ」
 気がつけば、悟空の顔が直ぐ近くで、俺を見ていた。
 真っ直ぐな琥珀色の瞳で。

 グイッ―――

「え?わ、わ、三蔵」
 金の戒めから逃れるように、再び悟空の身体を抱きしめた。
 薄い胸元に額をぴたりと着ける。自分と同じ時を刻む心音に、聞き入るように瞳を閉じた。
 暫くして、躊躇いがちに俺の頭に添えられた掌が、ゆっくりと髪を梳き始める。それから、
「三蔵…泣いてる?」
 困惑と、微かな期待の色が見えた。
「誰がだ―――寝言は寝て言え」
「なんだ、残念」
 頭の上から降ってくる声音は、どこか楽しそうに響いた。
「俺しか居ないから、いいのに―――泣いても」
「ふざけんな、何で俺が泣かなきゃなんねえんだ」
 相変わらず互いの顔を見る事無く続く会話。
「えー、だって三蔵なんか泣きたそうだったから」
 聞き捨てならない言葉に、漸く俺と悟空の視線が絡んだ。
「三蔵の泣いた顔も、笑った顔も、俺しか見てないんだからさ」
 随分と楽しそうに言いやがる小猿に、
「俺が笑ってるだと、初耳だな」
 眇めた目を向けた。
「そりゃそーだよ。自分が笑ってる顔なんて、見らんないじゃん。三蔵が笑ってるのを見られるのは俺だけだもん」
 その発言が余りにも自信たっぷりだったから、
「てめえは泣き顔も笑い顔も、安売りしまくってるじゃねえか」
 そんな悪態を吐いてみた。ところが、だ。
「いいんだよ、そんなの」
 笑ったままそう答えた悟空が次の瞬間。
「三蔵にしか、見せない顔だって―――あるだろう」
 浮かべていた笑顔の色を変えた。
「この…」
 ずくりと身体の奥が疼くような、その微笑に、
「誘ってんのか」
 上ずる声を辛うじて抑えた。
「誘われて…くれるの?」
 その顔も声も俺だけしか知らない。
「誘い方にもよるな」
 だからと言って、主導権を渡すつもりなんざ、これっぽちもねえ。
 口の端を上げた俺に、悟空は腕を絡ませ耳元で、
「雨の音煩いし、身体冷えちゃったから、お風呂いこ―――三蔵が…熱くして」
 言いながら、微かに腰を揺らめかせた。
「上等だ」
 猿にしちゃ、なかなかの誘い方だな。
「!っあ」
 乱暴に身体を抱えあげベッドを降りる。悟空の足が俺の腰に絡みつき、歩く度に擦られるそれが次第に熱と質量を持ち始める。
 燻っていた淫火はあっさりと大きくなっていく。
「さん、ぞ…」
「今夜は、寝られねえと思えよ」
 その途端甘い吐息を零し、悟空が哂う。


「ふぁ…―――あ、あん…」
 流れていく汗がどちらのものなのかも解らない。
 噛み付くような口付けを繰り返し、追い上げて、堕として、そして二人で上りつめる。
「悟空…もっと、見せろよ―――お前のかお…」
「んぅ…さん、さんぞ…も」
 俺を覗き込む、琥珀の瞳。
 淫蕩な熱に潤んでいるのに、その輝きは清かだ。
「んん…さんぞ―――笑って、る…」
 呟いた悟空が、あまりに場にそぐわない微笑みを見せるから。

「敵わねえよ―――お前には…」
 多分…俺も、笑っていたのだろう。
 

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久々に、ぬるいエロ。。。
おかしいなぁ、この話、最初は三蔵が泣けるか。って言う話のはずだったのに…


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