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何時だって俺を呼ぶその声に振り回されて、けれどそれが満更でもないのだ。 騒がしいお前との毎日が…けれど、 たとえばこんな時、俺は自分の思いに戸惑う ―――― 拾った猿は、やはり猿。 街へ出ると、悟空は必ずと言っていいほど迷子になる。 最大の理由は、喰いモンの匂いにつられて、握っていた法衣をあっさりと離しやがるからだ。 ハリセンでど突かれても次の時には忘れる、鳥頭な小猿。 で、今日も多分にもれず、うちのバカは忽然と姿を消した。 「毎度毎度、あんのバカ猿が」 いつの間にか袖が軽くなったと思ったら、悟空の姿はそこには無かった。 こうも同じ事を繰り返すと、いい加減怒る気も失せてくるが、さっきから頭の中は大音響で猿の声が響いている。 身も世も無い、悲しみだけが溢れる声。俺だけを求める声。 だからって訳じゃねえ、これは拾った責任から、あんな猿を野放しにしていればこっちの資質まで疑われるから。そうだ、それだ。俺があのバカを探す理由は。 見つけるのはそう困難な事ではない、なんせひっきりなしに呼ぶのだから。 俺にしか聞こえない声で ―――― 「あんなトコに居やがった」 酒場の軒先、酒樽の上に座り込んで背中を丸めている小猿。 膝の上に置いた小さな拳が、微かに震えているようだった。その姿を見て思いついた、それは単なる気まぐれ。少しは身に染みるだろうと、その程度のものだった。 「さて、何時まで我慢できるか…」 俺は離れた所で煙草を咥えてそれを見ていた。 時折顔を上げて、辺りを見回しまた俯く。口唇をかみ締め、金瞳は微かに赤みを帯びていた。 「たまには良い薬だ」 もう暫くそのままにしておこうと次の煙草を咥えようとした時、猿の元へ二人組みの男が近づいて来た。 何事かを話しかけているようだが内容までは聞こえない。そのうち、一人の男の手が猿の肩へ伸びた。その時だった、 「三蔵ーっ!」 悲痛な叫びに思考より先に、身体が行動を起こす、気がつけば男の肩を掴んでいた。 「なにし…や、がる」 振り返った男の顔から、見る間に血の気が失せていった。 「うちの猿に用でもあるのか」 「い…いえ…はい、何も…」 転がるように逃げだした男には目もくれず、すくみあがっている悟空に向き直り、俺がそれを振り下ろそうとした途端、 「さんぞーっ」 しがみついて泣き出した悟空に、ハリセンを振るう事も出来なかった。 「さん…ぅぇ…んぞ…ひっく……さん、ぞ」 頭に響く声から、法衣を握り締めた小さな手から、悟空の全てから伝わってくる。 「孤独」と言う名の恐怖 ―――― 結局俺は泣きじゃくる悟空の背を撫で、 「だから離れるなと、あれほど言ったろ」 同じ事を繰り返す猿に、同じ言葉を掛けてやるしかなかった。 「ごめ…な、さい…ごめん…ふぇ…な…い…」 縋りつく震えた身体に、直ぐに出て行ってやればよかった。と、小さな後悔が芽生えた。 それが不思議でならない。こいつは俺が捨てたはずのモノを、容易く思い起こさせる。 そして俺は、そんな自分の感情の変化に戸惑いを感じずにはいられなかった。 「泣くな」 「……ん」 「これに懲りたら、少しは大人しく着いて来い」 「…はい」 その日悟空は寺院に帰るまで、俺の法衣を離す事は無かった。 「って、あいつは一体何度やりゃ覚えるんだ」 先日の騒動は何処吹く風、居るべき猿の姿は無い。それでも聞こえてくるのは、俺だけを呼ぶ声。 だが、こうも続くとその「声」に耳を塞いでしまいたくなる。そんな不埒な思い抱いたとしても、それは仕方ない事だろう。が、 「…くそったれ」 思案の後、俺は確かな足取りで声を追う、どの道最後はそうなのだ。 これから先、悟空が何度同じ事を繰り返しても、俺はきっと見つけるのだろう。 その声が、俺を…俺だけを呼ぶ限り ―――― それがどういう事か、そんな感情がどんな名で呼ばれているのか、きっと俺は知っている。 知っているが、まだ気付く訳にはいかない。そして、 「バカ猿!少しは学習しやがれっ!!」 そんな俺にとってハリセンを食らわす事だけが、僅かな抵抗となったのは言うまでもない。 |
| 迷子の悟空を捜す三蔵サマ 何だかんだ言っても、悟空を一人に出来ない三蔵サマ。これを「惚れた弱み」と言わずして何と言う! でも、その感情に気付かないふりして、悪あがきする。こういう人が、開き直ると怖いんだよ…独占欲丸出し!みたいな…ね(あはは) 花淋 |