一緒がいいね

 


 旅の恥は掻き捨て――――
 でもそれが、どうして俺?
 彼の問い掛けに返事は返らなかったけれど、最強の称号と賞金のお陰で懐もお腹も満たされて、一行はそれぞれの部屋に引き上げた。
 柔らかい絨毯とフカフカのベッドは本当に久しぶりの贅沢で、シーツの波間にダイブした悟空を優しく受け止めてくれる。当然、三蔵と相部屋だ。
 その三蔵は窓辺のソファに座って、いつものように咥え煙草で新聞を広げている。
 時々新聞をめくる音だけの静かな室内。彼の顔は紙の向こうに隠れてしまっているけれど、あの顔に傷がつかなくてよかったと、悟空は思っていた。
 三蔵は弱い人ではない。何度も死地を潜り抜けてきた強い意志と精神を併せ持っている。けれど、当の三蔵ではなく悟空の方が、彼の負傷に敏感なのだ。自分が傷付く事以上に。
 勝負の結果には納得できないものがあるけど、少なくとも傍目には三蔵がダメージを負った様子は見られない。悟空は枕を抱きしめたまま、密かな笑いを漏らした。が、
「っ、て」
 左頬に走った微かな痛みに声を出してから、ゆっくりと身体を起こして首を傾げた。うーんと唸る、さて、何処で負った痛みだろう。その時悟空の頭上にすっと影が落ちた。
「三蔵?」
 いつの間に近付いたのか、見上げた先には普段よりも濃い紫暗。
「痛むのか?」
「え?」
 きょとんと丸くした金瞳に、三蔵の片眉が上がる。
「痛て」
 彼の親指が悟空の頬に触れていた。
「痛いのか?」
 静かに問われる声に素直に頷いて直ぐ、
「でも、平気だよ」
 笑って見せた。
 変わらない笑顔に三蔵の瞳が細くなり、指が離れるかわりに触れた温かい感触に、悟空がくすぐったそうに首をすくめた。
 羽のような口付けは心地よくて、三蔵の口唇が触れた場所からじんわりと熱が広がっていく。身体の力が抜けて、悟空の瞼がトロンと重くなった。
「寝るなら、風呂入ってからにしろ」
 笑いを含んだ声を耳元に落とされ、ん、と頷いた悟空は両腕を三蔵の背中に回して、彼の胸元へ鼻先を擦りつけた。
 上衣を下ろしているせいで三蔵の体温をいつもより近くに感じる。
「やっぱり、三蔵とはもう戦いたくないよ…」
 悟空の口をついて出た言葉に、三蔵の眉間に皺が生まれ、けれどそれは直ぐに消えた。
「わっ!な、何?三蔵」
「風呂だっつってんだろ」
 いきなり抱き上げられて、バランスを保つ為に無意識で三蔵の首に腕を回した悟空は、期せずして至近距離で合った紫暗に、どくんと心臓が跳ねるのを感じた。
「何だ」
「あの、風呂は分かったけど…お、降ろして?」
 戸惑った養い子の表情を面白そうに眺め、
「今日は俺が洗ってやる」
 とんでもない一言に思わず絶句する悟空に構わず、浴室へ向かう。
「ちょ、ちょっと三蔵!いいよ、一人で入る」
「遠慮するな」
「遠慮するに決まってんだろっ!」
 腕の中でギャーギャー喚きだす悟空は必死だ。三蔵と一緒に風呂に入れば、身体を洗うだけでは済まされない。
「降ろせって!三蔵と一緒になんて入れば、寝らんなくなるじゃねぇかよ」
 勢いで放った言葉に足を止めた三蔵は、ニヤリと片頬を上げた。
「何だ、期待してるのか」
 真っ赤になって首を振る養い子を見下ろしてくつくつと笑う。
「してねえっ!!」
 恥ずかしさの為か金瞳の端に涙を滲ませて、三蔵を睨み付ける。それを楽しそうに見てから、その耳元へ口唇を寄せた。
「戦うのが嫌なんだろ」
 ぞくりとするテノールに、悟空の背筋を何かが駆け上がる。
「な、何、を…」
 そんな養い子のわななく口唇を塞ぐ。
 逃げる舌を絡め取って、強張った身体からすっかり力が抜たのを確かめてから、三蔵はゆっくりと悟空を開放した。
「さんぞ…」
 胡桃色の頭がこてんと肩に乗ったのを穏やかな紫暗で見下ろして、それは本当に微かな悟空にしか聞こえない、悟空にしか聞かせない声で何かを呟いた。
「―――ずりぃ、三蔵…」
 拗ねた口調の悟空の眦に再び口付けを落として三蔵は、
「どうする?」
 本当は答えなんか、言わなくても聞かなくても分かっているけれど。
「…風呂じゃなくて……あっちが、いい」
 悟空は俯きながら、背後のベッドを指差した。


――――戦うのが嫌だから……だから、愛し合うんじゃねぇか


 普段そんな素振りをちっとも見せてはくれないのに、三蔵はときどき不意打ちのように悟空の心をくすぐる。
 共に極みを迎えた後、意識を手放した悟空の寝顔を見つめながら、ふと先の言葉を思い出した。


――――三蔵とは戦いたくない


 あの時蘇ったのは、血塗れた悟空の姿。
「あんなお前は―――二度と見たくねぇよ…」
 愛しい身体を抱き寄せて、その存在に安堵している自分を感じ、苦く笑ってからそっと瞳を閉じた。


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妄想が突っ走った、勢いだけの話。
たまには三蔵にもクサい台詞を(をい)



※オマケ

悟浄 : くっそ、えらい目にあったぜ
八戒 : まぁまぁ、お陰で旅の軍資金も増えたんですから
悟浄 : あんな恥ずかしいカッコさせたんだから
    俺の取り分は多いんだろうな
八戒 : 今月のお小遣いは割り増ししますよ
悟浄 : どこのお袋だよ(落)
八戒 : 貴方に渡したら、一晩でスッカラカンです
悟浄 : ……にしてもよ、お前らいつ知ったんだよ「副賞」の存在を
八戒 : あれはたまたまですよ
悟浄 : でも、何で俺?
八戒 : だって、あのカッコですよ
悟浄 : だから!別に猿だって…
八戒 : 三蔵が人前で、悟空にあの格好をさせると思ってるんですか?
悟浄 : うっ…ま、まぁな
八戒 : でしょ