音ノナイ夜ノ華 昼間の暑さが未だ幅を利かせた宵闇に、けれど確実に季節は歩みを進めて、リリリ…と聞こえるのは叢(くさむら)の虫の音。 執務室の主は筆を置いて椅子の背に背中を預けて息を吐いた。と、その時 ドォォーーーン 地響きと共に大輪の華が開いた。 競うように夜空を彩る大花火に、三蔵は少しだけ目を細め、それから何かに気付いたように腰を上げた。 廊下を私室へ向かう間も、色とりどりの花火が空を埋め尽くし、僧徒たちもその様に見入っていた。 「猿」 私室の扉を開けてその違和感に気付く。 静まり返った暗い部屋。否、微かに聞こえるのはしゃくり上げの声。 「悟空」 ベッドへ近付き、上掛けをすっぽり被った塊に声を掛ける。 「何してんだ、悟空」 小さく震える傍らに腰を下ろして、塊をポンポンと叩いてやると、 「……ん、ぞ」 「どうした」 ボソボソと何かを呟く養い子、三蔵は顔を寄せて小さな小さな声を聞き取ると、微かに眉を寄せた。 空が燃えてる… 爆音と極彩色の夜空は、それが初めての悟空にとって、 「刺激が強すぎたか…」 呟いて、再び震える身体を叩いた。 「悟空あれはな、花火ってんだ」 「はな、び…?」 「顔出して、見てみろ」 「でも…」 上掛けから漸く現れた金瞳に、怯えが走る。 「すげぇ音だし、足もビリビリするよ…」 「打ち上げ場所が近いからな」 三蔵はそう言って、おもむろに小さな養い子を抱え上げた。 「へ?さんぞ」 掃きだしの窓辺まで来ると、胡坐をかいてその中へ悟空を座らせ、窓を開け放つ。 さっきよりもはっきりと聞こえる爆音に、悟空の身体がすくみ上がる。 「ぅあ…」 肩を震わせる養い子の両耳に、少し冷たい感触。 「三蔵?」 「少しはマシだろ」 耳を塞がれていたけれど、悟空の強張りを解くには充分な言葉。 悟空は夜空を見上げると、 「音はびっくりするけど、花火って綺麗だな」 漸くその顔に笑みを浮かべた。 この先、何度こういう事が起こるだろう。 泣いたり笑ったり、怒ったり喜んだり。 たくさんの感情とたくさんの表情。 その全てを見届けるのも悪くないと思う。 「いい、退屈しのぎだな」 呟いて口角を上げる。と、耳を塞がれたまま悟空が三蔵を仰いだ。 「何か言った三蔵?」 「何でもねえよ」 言いながら悟空の耳を塞いでいた手を離し、そのまま小さな身体を懐に抱え込む。一瞬、驚いたように身じろいだ悟空だったが、すっと肩の力を抜いた。 「ありがと、三蔵」 悟空の言葉と笑顔に、三蔵は少しだけ抱きしめる腕に力をいれた。 copyright(C)Reincarnation All Right Reserved
初めて花火を見た悟空って、やっぱり最初は驚いたんじゃないかなぁ…と |