― Nature ―
風の章

#01
 僧正の位を降りても三蔵はやっぱり忙しい。
一昨日から、 以前居た寺の法要に泊りがけで出仕に行った。 それはもうすごい嫌そうな顔と超低気圧な態度のままで。
 やっと帰ってくる今日の夕食は、 三蔵の好きなものにする予定。
 三日ぶりの二人の食卓。 俺だって、 やっぱり離れてるのは寂しいんだ。 変わらないなあと思うけどね。
 そんな事を思いながら、 庭先で空を見上げれば、 今日も下ろしっぱなしの髪を風がなびかせていく。 未だに自分で髪を結わくのは苦手なんだ。
「だから三蔵がいないと髪、 邪魔なんだぞ」
 ああもう。 ちょっとどころじゃない、 すごくすごーく寂しい。
「うう、 こらーっ三蔵、 早く帰ってこーい」
 気持ちを隠すように両方の拳を空へ突き上げて叫ぶ。 その時だった、
「帰ったぞ」
「へ?」
 背後の思いがけない声に振り返ると、 そこには腕組みをした大好きな人。
「さんぞう……」
 驚いて動けない俺の耳に、 聞きなれた心地良い穏やかな響き。
「帰ったぞ、 悟空」
 菫色の瞳が優しく笑んで、 風がふわりと彼の金糸を揺らした瞬間。
「三蔵っ!」
 広い胸に飛び込んでいった俺を きゅうと抱きしめて、 その指が俺の髪を梳く。 嗅ぎなれた煙草の香りと腕の暖かさに全身が満たされていく。
「お帰り三蔵……お帰りなさい」
「ああ」
 固く抱きしめあった俺たちを包み込む柔らかい風。 それが合図であったかのように、 見つめ合って。 
 そして、 長いキスをした。



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