― Nature ―
雨の章

#02
 雨が降っていた事は知っていた。

 ページをめくる小さな音だけのリビング。 ふわりと後ろから掛けられたものに、三蔵は顔を上げ振り返った。
「風邪ひくよ」
 三蔵の肩へショールを掛けた悟空は、ソファを回り込んで彼の隣に腰を下ろした。
「お風呂上りなのに、薄着なんだから」
 読みかけの本を持つその手を包み込んで、
「指、冷たくなってるし」 悟空は眉間に皺を寄せた。
 珍しく夢中になって読んでいた本と、悟空を交互に見てから三蔵は、
「まだ、降ってるのか」
 少し低い声で呟いた。
「今夜はずっと雨みたいだよ。 明日の朝は寒くなるかもな」
 いつまでも暑さが居座っていた季節は、ようやく前に進むようだ。
「山の上のほうは、もう葉っぱの色が変わってきてるし。 日差しも強くなくなったよな」
 悟空のその言葉に、三蔵は小さく笑った。 大地の子はやっぱり季節の移ろいに敏感なようだ。
「三蔵の誕生日も、すぐだよ」
「まだ、一ヶ月以上も先だろ」
「そんな事ないぞ。 一ヶ月なんてあっという間なんだから」
 そういって笑う悟空の顔はとても楽しそうだ。 どうせあの策略家と何やら企んでいるのだろう。
 止めても無駄なことは、ともに過ごした時間の中で学習済みだ。
 毎年訪れる。 いつの頃からか「特別」となった、一年の中の一日。
 そして三蔵は、自分が雨の音を全く気にしていなかった事実に気付いて、のどを鳴らした。
「三蔵」
 悟空が怪訝な顔をして覗き込む。三蔵はその身を軽々と抱え上げると、寝室へ向かいながらその耳元へ囁いた。
 途端に悟空の顔が朱に染まり、俯いて三蔵のシャツを握り締める。
 
―――寒いなら、俺が熱くしてやるよ

 雨の音を後ろに聞きながら、寝室の扉が小さな音を立てて閉まった。



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