― Nature ―
雨の章

#01
 シトシトシト―――……
 枝から落ちた雨粒が、頭の上に一つ二つ三つ。

 庭の桜の大樹。 夏の名残の雨が葉を潤して、大地を潤して、そして悟空を濡らしていた。
「いつまでそこに居るつもりだ」
 不機嫌な声が頭の上から。
 だから、目の前の足に向かって顔も上げずに一言。 「俺の勝手」
「……好きにしろ」
 その声が、怒り六割呆れ四割。 とは悟空の見解。
「うん。 だから、勝手にしてる」
 返事はすでに我慢比べだ。
 そして、濡れた草を踏みながら、遠ざかっていく足音に悟空はふっとため息を吐いた。

 ケンカの原因は本当に些細な事。 どうしてこんな事になったのだろう。
 理由は至極簡単。
「俺が……我ままになってるんだ」
 呟いて、悟空は伸ばしていた足を引き寄せその両膝に、あごを乗せた。
 謝らなければならない。 そうは思うのに、身体は上手く動いてくれない。 だって、謝るのはいつも自分が先だ。
 意地を張っているのは分かる。 でも―――……
 悟空が再びため息を吐いたその時。
「うわっ」
 頭に落ちた大きなタオル。 そして隣に座ったその人に、肩を抱き寄せられた。 驚いて、強張った身体から力を抜くまで、数秒か数分か。 やっとの思いで出した声は微かに震えていた。
「三蔵も……濡れちゃうよ」
 昔ほどではないけれど、雨の日は気分が沈みがちな事を、悟空だって知っている。
「かまわねえよ」 それなのに三蔵の返事は素っ気無い。
「でも、このままじゃ三蔵だって風邪引く」
 悟空の困った声と。
「なら二人して、ひっくり返ってりゃいい」
 三蔵の笑いを含んだ答え。


 もう―――
 どうしたって彼に敵うわけはないのだ。 そうして悟空は勢いよく立ち上がった。
「風呂、わかさないとな」
 言って三蔵を見下ろし、常とは逆に手を差し出す。 その手を見つめながら三蔵は、しかしニヤりと口の端を上げた。
「わっ!」
 悟空の手を取り、思い切りよく引き寄せた身体を抱きしめ、その耳元に囁く。
「悪かった……」
 雨を含んで色を濃くした胡桃色の髪を撫でる手は優しさに満ちている。 
「ん……、俺もごめん」
 三蔵の背中に回った腕が法衣を握りしめた。
 結局二人は抱き合ったまま雨に打たれ―――……


 その後、愁由から大目玉を食らった。


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