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例えば、こんな時…貴方の優しさを知る。
もうすぐ花の季節が終わる…
葉の緑はその色を、いっそう濃くして陽の光に輝いていた。そんな頃になると、俺はいつも心が焦る
————
どうしてかは分からない。でも、毎年…三蔵の手であの岩牢から、解放された次の年の春から、それは続いている。そして今年も…
西へ向かう旅の空。いつもと変わらない毎日、悟浄と喧嘩して三蔵にハリセンでど突かれ、八戒に甘える。それでもふとした時に、心を締め付けてくるそれに、俺はどうしていいのか分からずに、只黙って耐えるしかなかった。
そんな俺に、貴方だけは気付いてたんだね ————
「この辺で、一休みしませんか?」
そう言って、八戒がジープを止めたのは、小さな泉の畔。
「うわぁ、池だー魚いっかな」
俺は車が止まるが早いか、飛び出していた。水面はキラキラと陽の光を浴びて、輝いてる。
「なんだよ、お子様。魚見て喰いつくんじゃねえぞ」
「うっせー赤河童、俺はそんなガキじゃねえ!」
俺は水面から目を離す事無く、隣に立つ仲間に悪態を付いた。が、焼けば美味いかなと、考えたのは言わない事にした。
「悟空、あまり覗き込んで落ちないでくださいよ」
後ろで八戒が言ってるのに、片手を上げて返事をしてから、顔を上げた。
突然、誰かに呼ばれたような気がしたんだ。
俺は立ち上がって、歩き出した。足は無意識にどこかへ向かっていた。
「誰だ…何で俺を…呼ぶんだよ」
辺り一面は、色とりどりの花が咲き誇っていた。よく知ってる花も、始めてみる花もある。そのどれもが、語りかけてくるようで、俺は知らずに自分の耳を塞いで、その場に蹲っていた。
思い出して…
「何を…だよ」
戻って…
「何処へ…」
一体何を、思い出すんだ。何処へ戻って来いって言うんだ。
頭ん中はめちゃくちゃで、此処から離れたいのに、身体が動かない。
「さんぞ…」
助けて…
その時。
———— スパーン!!
それは、今までに経験した事がないくらいの、衝撃だった。マジで目から火花が散った様に見えた。
「いっ、痛てーっっ!」
「寝惚けてんじゃねえぞ、バカ猿」
涙目で見上げれば、青筋を立てた三蔵がハリセンを肩に立っていた。
「三蔵…」
俺はきっと情けない顔をしていたと思う。三蔵は深いため息を一つついて、俺の前にしゃがんだ。そして、
「悟空…」
「…なに」
「膝かせ」
驚く間もなく、三蔵は体勢を返すと、俺の膝の上に頭を乗せて、目を閉じてしまった。
俺はどうしていいか分かんなくて、心臓はバクバク言ってる。三蔵に膝枕してもらった事はあるけど(かなり我が儘言ってだけど)、こんな事初めてだよ。
でも、三蔵は全然目を開けてくれない。眠ってないのは分かってるけど、何でこんな事してるのかは、分からない。
そのうち、やっと煩かった心臓が落ち着いてきて、三蔵を見つめた。時々悪戯な風が、彼の見事な金糸を撫でていく。手を伸ばしたのは、本当に無意識だった。
そっと指を絡ませれば、柔らかい金糸が指の間を滑っていく。太陽に反射して、輝いてる。俺は素直にそれを言葉にした。
「綺麗…」
その途端、すっと三蔵の瞳が開いて、俺を捕らえた。慌てて、手をどける。
「ご、ごめん」
その手を掴んだのは、力強い彼の手。
「止めるな」
「三蔵?」
三蔵は、もう一度同じ事を言って瞳を閉じると、その戒めを解いた。
俺は、再びその絹糸のような髪に、指を絡ませる。
暫くすると、目を閉じたまま彼がポツリと呟いた。
「くだらねえ事に、囚われてんじゃねえ…」
そっか…
三蔵は、気付いてたんだ。
貴方には、隠し事できないね。おれ、自惚れちゃってもいいのかな…
「三蔵…ありがと」
さっきまでざわついていた心が、嘘のように凪いでくる。
貴方のちょっとした言葉で、行動で…優しさで。
そして、最後に三蔵が告げた言葉は、本当に彼らしいと思った。
「てめえが考えていいのは、俺の事だけだ」
その甘い束縛に、俺は全てが満たされて…
「うん…」
微かに動いた彼の口唇が、何を言ったのかは分からないけど…
そっと目を閉じて、三蔵のチャクラに小さな口付けを落とした。
「誰にも渡さねえ…こいつは俺のモンだ」

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