| xv) 日常 〜悟空の言葉〜
「三蔵ーっ!」 「やかましいっ!」 スパコーン —— 「痛ってーっっ」 「ふん」 寺に居る頃から続いてる、俺たちのニチジョウ。 だけど… 旅に出るようになって、変わった事がある。 「それじゃ、僕と悟浄。三蔵と悟空でいいですね」 「うん」 「異議なーし」 「荷物もってこい、猿」 ハリセンが飛んでくるのは、ほとんど毎日だけど、いつもよりたくさん怒られたり、たくさん身体動かしたりすると、決まってその日は三蔵は同じ部屋になってくれる。 気付いたのは、最近なんだけどさ… 二人分の荷物を持って、部屋に入ると三蔵はいつもの様に、煙草を咥えていた。俺は、荷物を部屋の隅に片付けて、それから窓を開けた。夕方にはちょっと早いけど、風が気持ちいい。 「悟空…」 呼ばれたのは、その時。振り返れば、綺麗で深い紫暗の瞳が、俺を見ていた。 「さんぞう…」 俺はその紫暗に吸い寄せられる様に、三蔵の胸へ飛び込んだ。 旅に出るようになって、変わった事。たくさん怒られて落ち込んでたり、めいっぱい動いて疲れてると、三蔵は普段の何倍も優しい声で俺を呼んでくれる。それからぎゅって抱きしめてくれるんだ。 そうして、三蔵の胸に擦り寄ると、鼻を擽るのはいつもの煙草の匂いと…俺だけが知ってる、三蔵の香り。 あれは、西への旅が始まる直前。 八戒の家(あれ、悟浄ん家だっけ)に行く途中、何気なく足を止めた露店に並んでいた、色とりどりの小さな小さな布袋。 何を入れるのかと聞けば、匂い袋だよと言って、ひとつを見せてくれた。薄いセロハンをはがすと、ふわりと香るそれは、すごく俺の心を惹きつけた。そして浮かんだ大好きな人の顔。 俺は散々迷って、その人に一番似合う香りを見つけた。 蜜柑の様に爽やかで、でもそんなに甘くなくて…苦くて甘い。 彼がくれる、キスの様に。 三蔵にそれを渡した時、無駄遣いしてんじゃねえって、怒られたけどハリセンは飛んでこなかった。それから、三蔵がその匂い袋をどうしたのか、俺はぜんぜん知らなかったんだ。 そして始まった四人旅。 悟浄と夕飯の取り合いをして、三蔵にしこたま頭をぶっ叩かれた。その晩、三蔵は今みたいに、俺を抱きしめてくれて、煙草の匂いに混じってその香りがした時、すごく嬉しくて三蔵の優しさを全身で感じた。 今も…煙草と一緒に香るそれ。 八戒や悟浄は知らない、俺と三蔵だけの香り。 「三蔵好き、すごく…大好き」 「ああ…知ってる」 不思議なんだ、こうして三蔵に抱きしめてもらってると、他の事なんかどうでもよくなってくる。今日は汗いっぱいかいたから、風呂だって入りたいし、何より腹が盛大に食いモンを要求してる。 でも、身体があったかくなって、そのうち三蔵の手が背中を撫でて、髪を梳いてくれると、あまりの気持ちよさに瞼が重くなる。 遠のいていく意識の中で、三蔵が何か言ってるみたいだけど、もう聞こえない。 「起きろ、バカ猿」 声と共に頭に落ちる衝撃。これもいつも変わらない。三蔵の腕の中で眠って、ハリセンで起こされる。寝ぼけ眼で痛む所を擦っていると、飯だと言って部屋を出てしまう。慌てて追いかければ、扉の外で待っててくれるんだ。そんな小さな優しさが、俺だけに向けられるのだと分かって、どんどん三蔵を好きになる。昨日より今日、今日より明日。言ったら、湧いてんのか猿って鼻で笑われた。けどその後、くしゃりと頭をひと雑ぜされて、紫暗の瞳がすっと細くなった。調子に乗って、早く飯と手を引けば、案の定それが飛んでくる。 これが、旅を始めてからの、俺と三蔵のニチジョウ。 俺と、三蔵だけの ———— なっ、三蔵! おわっとけ
|
| たまにはこんなお話も… 実は、三蔵ver.もあります。 次回はそちらを♪ 花淋拝
|
使用素材 : クリップアート【ひまわりの小部屋】様