貴方だけ見てる



 三蔵の顔を見る時は、覚悟がいるんだ。
 だって、うっかり見ると、目が離せなくなっちゃうから。そう…今みたいに。


 久しぶりの宿は、早い時間に着いたから夕メシまでのんびり。
 先に買出しを済ませてきます。と言った八戒に、いつもの様にくっ付いて行こうとしたら、たまには、気ぃ使え猿って、悟浄に追い返された。
 最初は何言ってんだ、ゴキブリ河童って思ったけど、三蔵と二人っきりになって気が付いた。
 悟浄も八戒と二人っきりになりたかったんだ。

 静かな部屋には、三蔵が新聞をめくる微かな音。
 窓をいっぱいに開けていると、吹き込む風はまだちょっぴり冷たいけれど、日差しが温かくて眠気を誘う。
 とろんとした俺の耳に、がさりと三蔵が新聞を置いた音。動きを半ば無意識に追っていた俺の心臓が、その瞬間凄い音をたてた。
 咥えた煙草に火をつける三蔵の、少し伏し目になった表情に釘付けになった。
 箱から取り出した煙草を咥えて、ライターの火を手で守りながら、視線を落とす。一連の動作に一つの無駄も無く、流れる様な…「優雅」そんな言葉がぴったりだと思った。
 あまりに綺麗で、俺はただ三蔵を見つめて、その無粋な視線に気付いた彼の呼びかけに、思わず返事が遅れた。
「…あ、ごめん…」
 居心地悪く顔を逸らした俺を、もう一度三蔵は呼んだ。その紫暗が言外に来いと命じている、俺は従うしかないんだ。
「な、に…」
 彼の座るソファの前で普段とは逆の、見上げる三蔵と見下ろす俺。
 立ち尽くす俺を見る視線が、その時不意に緩んだ。咥えていた煙草を灰皿に押し付けて、三蔵は自然な動きで俺の腕を引き、あっという間に彼のヒザの上。
「どうした」
 横抱きにした俺の耳元に、ぞくりとするテノールが響く。
 真っ赤になって俯いた俺に、三蔵は同じ事をもう一度聞いた。
「あ、の…み、見とれて、た…ごめん」
 隠す事なんか出来なくて、正直に白状すれば、頭の上で微かに笑う気配。
 俺はますます恥ずかしくなって、三蔵の胸に顔を押し付けた。
 そんな俺の頭に、軽く全然痛くないゲンコツが下りて、それから、
「いつだって、俺だけを見てろよ」
 笑いの消えた、真摯な声に思わず顔を上げた俺は、その紫暗に吸い込まれた。
「他に余所見なんかするな、俺だけを見てろ」
 それは魔法の言葉のようで。俺は頷いて、それから身体を起こして、三蔵を跨ぐようにヒザの上に座りなおした。
「三蔵も、余所見なんかすんなよ…俺だけを…見て」
 そう告げてゆっくりと三蔵の首に腕を絡めた。
 片腕に腰を抱かれ、もう一方で頭を引き寄せられる。
 触れ合う瞬間に、当たり前だ。と囁かれ、熱い口唇に全ての思考を持っていかれた。
 後はもう、三蔵を感じるだけ。
 何度も口唇を重ねあって舌を絡めて、名残惜しげに離れたそれが、耳の後ろをキツク吸い上げた。
「あっ…ん…さん、ぞ」
 俺の理性を奪っていく口唇と手に息を上げながら、
「だめ、だ…よ…んぁ……もどっ…て、来ちゃ…」
 出掛けた二人の事が気になって、力の入らない腕で抗ってみたけど、
「お前がいい声で啼いてりゃ、入ってこねぇよ」
 とんでもない台詞を吐いた三蔵に、数瞬の間思考が止まった。けれど、
「そ、だね」
 俺の口を付いた言葉、恥ずかしいという思いよりも、もっと触れたい触れてほしいと身体が訴えていた。そして、滅多に見られない三蔵の微笑。
 ああまただ、目が離せない…
「さんぞ…好き…大好き…愛してる」
 うわ言の様に繰り返す。何度言っても言い足りない、もっと自分の気持ちを伝えたいのに、想いばかりが溢れて、上手く言葉にならない。それが悔しい…そう思ったら鼻の奥が熱くなって、
「さん、ぞ」
 ただ三蔵に縋りつくだけ。
「バカ猿…お前の声は、よく聞こえんだよ」
 耳元で低く囁かれて、俺は顔を上げた。
「お前は…俺だけを感じてろ」
 俺を見つめる紫暗から、燃え立つ熱情を感じた。







 三蔵の手が滑る様に俺の肌を撫でていく。
 もうそれだけで息が上がって、自分より冷たい三蔵の手が、身体に火を灯していく。
「ぁ…さん…ぞぉ…ぁあ」
 恥ずかしくて…自分じゃないような声が恥ずかしくて、ぎゅっと目を瞑る。そうすると今度は、余計に三蔵の愛撫を感じて、ますます声が抑えられない。
「んぅ…」
 口唇を噛んで与えられる快感をやり過ごそうとすれば、
「悟空、声を出せ」
 三蔵は言いながら、俺の口唇をぺろりと舐めた。
 ずるい三蔵。こんな時ばっかり、優しい声で俺を呼ぶなんて。
「悟空…」
「ああぁ…」
 だめ、も…止められない。
「ふぁ…あ、あ…ああぁ、んぁ」
 三蔵の口唇が、手が、身体中を滑っていく。首筋を下りていく指が胸で止まって、
「んぁっ!」
 勃ち上がったそれを摘まれた途端、脳天から足先まで痺れるような快感が駆け抜けた。
「や、さん…ぞ……ソコ」
「なんだ」
「ひゃう!」
 もう片方をぬるりとした感触に覆われた。押し潰すように舐めまわされて、のけぞった身体は自分から三蔵にソコを差し出しているようで、
「ここがイイんだろ」
「やぁ…ソコ、しゃべ……ない、でぇ」
 不規則にあたる舌が、俺を翻弄して身体中の血を沸騰させる。必死になって滑り込ませた指は、三蔵の頭をそこから引き剥がしたいのか、押し付けていたのか、もう俺には解らなかった。
「さんぞ…あんっ……さん、ぞぉ…あ、あああぁ」
 自分の声に混じって、胸から聞こえるピチャピチャとした水音に、思考を狂わされていく。もうどうしようもないくらい、神経がソコに集まって、無意識に腰を揺らした俺を三蔵が見逃すはずは無かった。
 足の間に身体を割り込ませて、内腿を撫で上げた三蔵の手がソコへ絡み付いた。
「うああぁぁ」
 目の奥で火花が散った。ゆっくりと三蔵の手が動き出す。
「もう、ベトベトだな」
 耳元で囁かれそのまま口唇が耳たぶを嬲り、ソコを弄る手は悪戯に強くなったり弱くなったり…
「あ、あ…あぅ…ああぁ、あふ…さんぞぉ」
「イクか?悟空」
 蠢く手は止まらない。混じって響くのはいやらしい粘着音。
「悟空…」
 耳を嬲っていた口唇が頬に押し当てられた。無意識に流れてしまった涙を吸い上げて、幾度も送られる優しいキスの雨。
「さんぞ…も、イ…く」
「ああ…イケよ」
 強弱をつけて俺を扱いていた指が、その先端を引っ掻いた。
「ん!あ、あああっ」
 頭が真っ白にスパークして、三蔵の手に自分を擦りつける様にして、俺はその精を吐き出した。
 力の抜けた身体、荒い呼吸を繰り返す俺の頭を大きな手が撫でていく。
「さんぞ…」
 キスを強請るように彼を呼ぶと、紫暗の瞳にふっと笑みが浮かんだ。そしてゆっくりと重なる口唇。
「ん…」
 舌を差し出したのは俺から。三蔵の口内に招き入れられ、そのまま貪るように互いを絡めあった。その間に、三蔵の指は俺の後ろをまさぐり始める。俺が吐き出したそれを塗りこめるように動く指。つぷっと埋め込まれた指に、上がった声は重なったままの口唇の中に消えた。
 奥へと侵入を果たした三蔵の指が、内側を撫でる様に動き出す。それだけで俺は前を勃ち上がらせ、トロトロと淫らな蜜を零していた。
「また濡れてきたぞ」
 離れた口唇が紡ぎだす悦楽の言葉。それさえも俺の身体は快感として受け止める。
「や、そん…な、した…の…さん、ぞ」
「ああ…そうだな」
 くちゅん…
「あぅ…」
 俺の中を掻き乱していた指が抜かれ、
「悟空、どうしたい」
 甘美で残酷で蕩けるような問い掛け。口元に張り付いた笑み、熱を孕んだ紫暗、擽るように触れる指先。
 言わなくたって、聞かなくたって解っているはずなのに、三蔵はそれを俺の口から言わせたがる。
 恥ずかしさに身を焼かれそうになるけれど、でもそれ以上に俺の身体は三蔵を欲しがっているから。
「ほし…三蔵が。はやく…ちょ、だい」
 ああ、三蔵が笑ってる。
 三蔵のそんな顔、俺しか見られないんだよな。
「んんっ…あ、あっ…ああ、ア」
「っ…ごく、力…ぬけ」
 俺を引き裂く三蔵の雄。侵入の圧迫感を深呼吸でやり過ごし、ソコが三蔵の形を確かめるように、意思とは関係なく蠢く。
「熱い、よ…さんぞぉ」
「ああ、お前の内(なか)がな…」
 熱い吐息と共に吐き出された三蔵の言葉に、身体が震える。そして、ゆっくりと抽挿が始まった。
「あぅん…あ、ア…ぁん…ああ…ア、ア……んあっ」
 突き上げられて、揺さぶられて、内の弱いところを攻められて、喘ぐ声が止まらない。それでも俺はもっと三蔵を感じたくて、自分の足を三蔵の腰に絡みつけた。身体が密着した事で、俺自身も互いの腹に擦られて、溢れた蜜が繋がってるトコまで流れて、グチュグチュと音をたてる。
「あん、さんぞ…っと、もっと…ああん…ア…さん、ぞ」
「ご…くぅ」
 好き…三蔵が、三蔵だけが好き。
 この人が、俺の全て――――
「さんぞ…キ、ス…て」
 繋がりたい。心も身体も全部繋がって、三蔵と一つになって、絶対に離れないように。
 あげるから、俺を全部あげるから。三蔵も…
「さんぞ…だ、め……も、あぁ…イ、ぁあ」
「ほら…イ、ケよ」
 三蔵の呼吸が荒くなる。三蔵も感じてる?俺と同じ想いでいてくれる?
「悟空…」
「三蔵…も、イク…あああぁぁっ!」
 頭の中が焼き切れるほどの衝撃、それから自分の中に広がる熱い迸り。俺は腰を揺らして、三蔵を締め付けて、縋り付いて…
「さん…さんぞ」
「悟空」
「あん…さんぞぉ、まだ…」
 俺の中の三蔵はまだ力強く、自分の身体に再び淫火が灯るのを感じた。






 声がする。誰だろう?あれ、身体が…ううん、目も開けられない。
 でも、いっか。
 ここはすごくあったかい。
「――――しましょう?よく眠ってますね」
 ああ、八戒の声だ。
「いんじゃねえの、腹が減りゃ起きてくんだろ」
 悟浄だ。
 帰って来たんだ二人とも。「腹が減ったら」って、もう飯の時間なのかな?
 腹、減った様な気もするけど、今はもうちょっとこのままで居たい。
「ほっとけ」
 三蔵の声だ。やっぱ、俺置いて三蔵も飯に行っちゃうのかな。
 俺が動けない原因の半分は、三蔵のせいなんだぞ。
「じゃあ、食事は…」
 ああ、俺置いてけぼり確定…?
「お前らだけで喰って来い」
 え?――――
「そうですね、お先に頂いてきます」
 八戒の声、笑ってる気がする。
 それから、部屋の中が静かになった。まだ、くっ付いていたがる瞼を無理やり開けると、
「起きたか」
 柔らかい紫暗とぶつかった。
「さん、ぞぉ」
 上手く出ない声に、ちょっとだけ三蔵の眉が動いた。
「もう少し寝てろ」
「さんぞ、飯は?」
「腹は減ってない…起きられるのなら、喰いに連れてってやる」
 そう言いながら、俺の枕元に座って頭を撫でてくれる。
「ん、今は…も、ちょっと寝たい」
「そうか」
 優しい手は止まらない。
「三蔵、ここに居てくれる?」
 ここには俺と三蔵しか居ないから、甘えてもいいよね。
「…居てやるよ」
 そう言って、こめかみにキスを一つ落として、髪を梳いてくれる。
 心地いいその感触に、俺はまた淡い水底へ落ちていった。








2005年度終了!!
あ、裏で終わりかい(あはあは)う〜ん、来年はもうちょっと、コッチの更新も進めたいなぁ
裏は書き始めると、止まらなくなっちゃうんだよね。だって、三蔵サマ凄そうでしょ。。。
で、どこまで書いてよいのやら…

と、とりあえず、今年の更新はこれが最後です。
皆さん、一年間本当にありがとうございました。(だから、裏で挨拶すんなって自分)
来年もよろしくお願いいたします。
2005/12/31 花淋拝