Honey


 今日もジープは、西へ走る。

「ハラ減った〜」
「おめーは、それしか頭にないのかよ。万年欠食猿」
 自分の独り言に返事が返ってきたのはいいが、聞き捨てなら無い単語に猿呼ばわりされた少年は、すかさず反撃に出る。
「んだと、この赤ゴキ河童!」
 それは正しく、売り言葉に買い言葉。
「上等じゃねえか!ガキ猿」
 そんな背後のやり取りに、運転者は「あー始まりました」と、苦笑いを浮かべ隣の男を横目で伺った。
 横顔からでも分かるほどの不機嫌。これは時間の問題だと敏感に察知し、彼は少しだけアクセルを強めた。
 その刹那 ————
「やかましっ、痛っ…」
 後ろの雑音に怒鳴りつける声が途中で止み、左手で口を押さえる。それでも彼の右手はしっかりと銃を構え、一人を狙っていた。
「三蔵!どうしたんだ」
 運良く(?)狙われなかった少年は、驚いて三蔵の顔を覗き込む。
「わっ、口から血が出てる。何したんだ三蔵!変なモンでも喰ったのか」
「っつ、てめえと、一緒にすんな。猿」
 乱暴に口を拭う。どうやら切れたのは唇の様で、縦に赤い筋が入っていた。
「八戒、どうしよう」
 先程と打って変わった少年の心細い声に、運転者:八戒は、大丈夫ですよとバックミラー越しに、話しかける。
「このところ乾燥してましたからね。あまり舐めないください、ますます乾きますから」
 街へ着いたら、薬を買いましょう。と、言われて三蔵は不貞腐れた様に、助手席に座りなおした。
「悟空、大丈夫ですよ」
 大人しくなってしまった少年を安心させる様な、八戒の柔らかい声に悟空は小さく頷き、そっと後ろから前に座る三蔵の法衣を摘んだ。
 それを隣で見ていた、ケンカの相手は「相変わらず、さんぞー様命かよ」と、呟いた。もちろん声には出さずに。


 暫くして、街に辿り着いた一行は宿を取ると、八戒は悟空を伴って買い出しに出かけた。

「ただいま!三蔵、これつけろよ」
 勢いよく部屋に飛び込んできた悟空は、わき目も振らずに三蔵の元へ駆け寄る。一方新聞を読んでいた三蔵は、あまりの勢いに珍しく悟空へ注意を向けた。
 そして、差し出された悟空の手の中の物を、訝しげに眺める。
「何だこれは」
「はちみつだよ」
 あまりにも素直な答えだが、三蔵が聞いてるのは、そのはちみつをどうするのかだ。
「唇にぬるんだよ。八戒が乾燥には、はちみつが一番効くって」
「ぬるだと、そんな甘いもん」
 真っ平だと言わんばかりに、再び視線を新聞へ戻した。
「だめだぞ、ちゃんと治しとかないと」
 悟空は実力行使にでるが、何度目かの押し問答の後ハリセンでしこたま頭を叩かれると、涙目で痛む箇所を撫でながら、三蔵に一しきりの悪態を付いて部屋を飛び出した。
 一人残された三蔵は、悟空が置いていったはちみつのビンを、恨めしそうに眺めてから再び新聞へ視線を戻した。
 
 今日に限って、悟空の機嫌はなかなか直らなかった。夕食の席でも、三蔵には目もくれず(彼はある意味、食事の時は目の前の、食いモンにしか集中しないが)黙って、口と手を動かしていた。
 その態度に、三蔵はとうとう口を開いた。
「おい猿、言いてぇ事があんなら、さっさと言え」
「無い!」
 即答である。これには、仲間の二人も思わず目を丸くした。悟空は「ごちそうさま」と、手を合わせてから立ち上がると、くるりと背を向け歩き出した。が、思い出したように首だけを巡らせた。
「一つあった。俺、八戒の部屋で寝る」
 めったに見ることが出来ない、年上三人の惚けた顔を見る事無く、悟空は食堂を飛び出した。
「猿の奴…反抗期か」
 最初に立ち直った悟浄が、ぽつりと呟き、その後肩を揺らして笑いを堪えていた。その姿に舌打ちして、三蔵が懐へ手を突っ込みそれを握り締めた途端。
「心配なんですよ三蔵が」
 絶妙なタイミングで紡がれたその言葉に、命拾いした悟浄が、そーそーと相槌を打つ。
「あなただって、分かってるんでしょう。少しは悟空の気持ちに、応えてあげてもいいんじゃないですか」
 柔らかく言われた言葉は、しかし十分な厳しさを以って、三蔵に向けられた。顔は穏やかに微笑んでいるが、追いかけろと責め付けているのは明白だ。
 三蔵は不本意だとばかりに立ち上がると、歩き出しながら煙草に火を点け、紫煙を引いて食堂を後にした。
「素直じゃねえーよな。最高僧サマは…」
「あれが逆の立場なら、絶対に傍を離れたりしませんもんね」
 残された二人の、彼が居ないからこその発言。尤も、悟浄は本人が居ても言うのだから、命が幾つあっても足りませんよ。と、八戒は釘を刺す事も忘れなかった。





 乱暴に扉を開いた三蔵は、居るべき養い子の姿が見えない事に、眉間の皺を深くした。短くなった煙草を灰皿へ押し付け、踵を返す。行く宛てなど無いのだ、直ぐに見つかる。何より、声を頼りに行けばいい、自分にしか聞こえない声を ————
「世話ばっかり、掛けさせやがって…」
 だが、呟いた言葉に怒りなど無く、声のするまま歩いていけば、積まれた空の酒樽の上で、膝を抱える子供が居た。

「俺だって心配なのに…さんぞーのバカ」
 完全に自分の世界に入り込んでいた悟空は、近付く影に気付かない。
「誰が馬鹿だ」
「えっ、うわぁ!」
 ささやかな反抗の言葉に返事が返えり、驚いた悟空がバランスを崩して、酒樽ごとひっくり返りそうになるのを、二本の腕がしっかりと支えた。
『あ…さんぞーの匂い』
 ふわりと鼻腔をくすぐるのは、嗅ぎ慣れた煙草の匂い。それがなんだか嬉しくて子供の様に、匂いの染み付いた法衣へ、擦り寄った。
「用もねえのに、外をほっつき歩くな。冷てえじゃねえか」
 懐くその身を引き寄せながら、紡ぐ三蔵の言葉に、普段の厳しさは少しも含まれていない。
 くっついていた身体が、そのままの姿勢で頷き次いで小さな声でごめんと、呟くのが聞こえると、 その態度に三蔵は嘆息して、回した腕に少しだけ力を入れた。
 悟空は三蔵が怪我を負うことに対して、過剰なまでに反応する。自分が彼にとって「絶対な存在」である事は、十分承知している。けれど今回は、敵にやられたわけでも、まして命に関わるような傷でもない。ただ、そこまで分かっていてあんな態度をとる、三蔵も三蔵なのだけれど…
 それでも、このまま沈んだ悟空を見ていたくはない。三蔵はなけなしの ——八戒や悟浄に言わせれば、溢れんばかりに在る—— 優しさで、言葉を紡いだ。
「お前が、俺を心配するのは勝手だ」
 びくっと悟空の身体が震える。この子供は、人の話を最後まで聞かない悪い癖が、旅に出る前から全く直らない。それをそのままにして、彼は続けた。
「—— だから、俺にまで、同じ思いをさせるな」
 えっ、と驚いて見上げ悟空が、穏やかな紫暗の中に居た。
「三蔵…」
「戻るぞ」
 腕を解き、身を翻す三蔵を悟空は暫し見つめ、それから破顔して後を追った。

 後ろをついてくる気配が遠のいて三蔵は、振り返った。悟空は数歩後ろで、自分を見ている。何をしてると口を開きかけて、悟空の言葉を思い出した。
『俺、八戒の部屋で寝る』
 三歩歩くと直ぐに忘れる鳥頭。ならぬ猿頭は、こういうくだらない事は、よく憶えているらしい。縋るような瞳で自分を見つめる悟空に、
「出来ねえ事なら、最初からするな」
 ぞんざいに告げると、一人部屋へ消えた。
 それから悟空がその部屋へ入ってきたのは、三蔵が最初の煙草を灰皿に押し付けた頃だった。
 居心地が悪そうに立ち尽くす悟空を横目に、三蔵の視界にさっき彼が持ってきた、はちみつの小さなビンが見えた。そのとき三蔵の口の端が僅かに上がったのを、悟空は知らない。
「悟空」
 名前を呼ばれて、悟空は顔を上げて三蔵を見た。人差し指を折り、自分を呼んでいる彼の元に、近付いていく。手を出せと言って、その手の上にはちみつのビンを置いた。
「三蔵?」
「お前がつけてくれるのなら、ぬってやらん事もない」
 その言葉に、素直に悟空は笑顔となり、頷いてビンを開いた。
 三蔵はベッドの端に座り、悟空は彼の足の間に入って指ではちみつを掬った。自分を見つめる紫暗に吸い込まれそうになって、慌てて口唇に視線を移す。薄く開いた口唇に、そっとはちみつをぬり付けていく。独特の匂いが鼻腔をつき、悟空の指が口唇を離れようとした時だった、その手を三蔵が掴みそのまま指を銜え込んだ。
「さ、三蔵!」
 驚いた悟空が手を引こうとするが、戒めはそのままに三蔵の舌が指を舐めていくと、 ひくんと悟空の身体が震えた。
 それをちらりと見て取ると、三蔵は心の中でほくそ笑んだ。
 悟空は真っ赤になって、三蔵のされるがまま。必死に何かを堪えている様に見えた。
 漸く三蔵の口唇から指が抜かれると、膝から崩れるようにその場にへたり込んでしまう。
「悟空」
 自分を呼んだその声が、ひどく楽しげで悟空は三蔵を睨みつけるが、頬を染めたその表情が余計に相手を煽るのだという事を、悟空は知らない。
 三蔵は立ち上がり部屋の明かりを落として、戻ってくると擽る様に耳元で囁いた。
「どうした、悟空」
 低いその声は麻薬の様に悟空の中に浸透する。背筋を甘い痺れが駆け上がり、三蔵が自分を抱き上げる事に、悟空は何の抵抗も見せなかった。
 そうして彼に組み敷かれ、受ける口付けはひどく甘いもので、徐々に深くなるそれに悟空は酔いしれ、力なく三蔵の腕に縋った。





 三蔵の指が、口唇が、悟空の熱を上げる。
 何もつけていなのに、溶けてしまいそうな程熱い…その肌を彷徨う三蔵の手も、見つめる瞳も熱くて…
「ぁ…さんぞぉ……はぁん」
 与えられる刺激が強くて、悟空の瞳から涙が零れた、上気した頬に生まれた細い銀糸に、三蔵が口唇を寄せる。そのまま口唇を塞ぎ舌を絡め捕る、貪るような口付けに堪えられなくなって、悟空は三蔵の胸を力なく叩いた。
 三蔵は仕方なしに、口唇を解放したが、片手を下肢に伸ばし悟空のそれを捉えた。
「ああぁっ…」
 指を絡めやんわりと握りこむと、悟空の背がしなやかに反り返った。蜜を滲ませたそれをゆるゆると扱き出す、悟空は漏れそうになる声を必死で抑えようと、唇を噛んだ。
「やめろ…」
「さんぞ…」
 動きを止め、悟空の顔を覗き込むと、口の端に僅かに血が滲んでいた。眉をひそめ小さく「馬鹿」と呟き、舌を這わせた。その血すら甘いと感じて、

 俺もかなり湧いてんな…

 頭の隅でそんな事を想いながら、再び花芯を弄りだした。
「あんっ…」
 再開された指淫に悟空は翻弄され、最後まで残っていた羞恥をあっさりと奪われる。上がる声はいっそうの艶を増し、それを心地よく耳に聞きながら、三蔵は胸に色付く硬く勃ち上がった小さな実を、吸い上げた。
「…っ!あっあっ」
 苦しそうに頭を振る悟空に、ほくそ笑んで三蔵は口唇を離し、声を掛けた。
「悟空…どうして欲しい」
 花芯を弄る指は、止まらない…悟空は答えず、熱い吐息を漏らすばかりで、今度は悟空のそれから手を離し、もう一度三蔵は同じ事を聞いた。
 高みへ登る途中の身体は、意思とは関係なく次の刺激を求める、悟空はそんな心と身体についていけず、ぽろぽろと涙を零した。
「さんぞう…」
 縋るように向けられた視線を受け、三蔵は嘆息して眦に口付けた。何度も、何度も、悟空と名を呼びながら…それがとても優しかったから、悟空は彼の首に腕を巻きつけ、その耳元に恥ずかしげに囁いた。
「シて…」
 濡れた囁きが、三蔵の理性を狂わす。
「どっちがいい…手か、口か…」
「ふぁ…そ、な…こ…と…」
「いわねえと、このままだぞ」
 愉悦を含んだ三蔵の言葉に、身体中の血液が沸騰しそうになる。
「はっきり言えよ…」
 内腿を撫で上げられると、開放を許されないそれが、ひくりと震えた。
「ァ…ちで…く、ち…で…シて」
 ニヤリと笑って回された腕を解くと、三蔵が下肢へ移動する。悟空はきゅっと眼を閉じた。そして…
「んっ!ア…あああっ…さん…ぞぉ…ぅあ」
 花芯にねっとりとした熱いそれが絡みついた。執拗に動く舌が生み出す、甘く強烈な刺激に悟空は喘ぎながら、一気に上り詰め。
「あぅ、さんぞっ!だめ…で…ちゃう…」
 彼の頭を引き剥がそうと、金糸に指を射し込むが、望んだのはお前だとばかりに、三蔵は花芯の先を飲み込み放出を促すように、甘く歯を立てた。
「あっ…ああっ!!」
 喉をつく熱い迸りを、三蔵は残さず嚥下した。悟空は羞恥に顔を覆い、小さくしゃくりあげる。そんな震える身体を抱きしめ、三蔵は慈しむ様に悟空を呼んだ。
「悟空…」
「さんぞ…」
 見つめるのは優しい紫暗。
 自分だけが見る事を許された瞳。居る事を許された暖かい胸。
 悟空ははにかんだように笑うと、顔を近付けて自分のモノで汚れた三蔵の口元に、舌を這わせた。
「さんぞ…好き…」
 覗き込んだ金晴きんが、自分を映す…自分だけを…至福の波が押し寄せる。照れ隠しの様に、いつもの悪態をついた。
「……バカ猿」
「猿って言う!んぁ…ぁぁ」
 抗議は下肢に伸びた指で止められた。閉じた蕾を解すように蠢き、そこへ沈み込ませる。ふと、三蔵は何かを思い出したように、身体を離した。ぬくもりが離れた事で悟空が不安げに、彼を見上げると。三蔵はサイドテーブルへ手を伸ばし、それを取り上げると中身をひと掬いした。
「三蔵?…ひゃぅ!な、に」
 つぷ…と再び指が挿入られ、だが何かが違う。入ってきたのは、指だけでは無い様で…
「はぁ…ん…さん……なにし…て」
「慣らしてるだけだ」
 増やされた指は、それの滑りを借りて難なく悟空の内部なかを掻き乱す。見れば悟空の花芯は、硬さを取り戻し、先端を蜜で濡らしていた。
 悟空は、熱に潤んだ瞳を向けて、三蔵に強請る。
「さんぞぉ……おれ…さん、ぞ…のモノに…して」
「…ああ」
 甘美な誘いを受け、悟空のそこから指を抜くと、熱く猛った自身をゆっくりと沈み込ませていった。
 十分に解されたそこは、貧欲に三蔵を呑み込んでいく。上がる声には、どこか満ち足りた響きがあった。
「さんぞ…さんぞう…」
 名を呼ばれる度に熱が上がる、身体に火が点る。悟空の悦びが、繋がったところから三蔵にも伝わり、求められるままに何度も最奥を突いた。
 二度目の絶頂へ向かう悟空の腕が伸びて、三蔵の頭を抱く。
「三蔵…さんぞう…も…イ…ちゃう」
「っ…ケよ」
 首筋に口唇を押し付け、所有の紅い華を幾つも散らしながら、穿つ動きを早める。
「んあっ!…しょに…さん…も、いっしょ…」
「ああ…ご、くう…」
「ふぁ…あっあああ…三蔵っ!」
 痛いほどに背中を反らせて、一際高く悟空が嬌声を上げた直後、三蔵を咥えたそこがキツく彼を締め付けた。
 その刺激に、三蔵も溜まっていたものを吐き出し、同じくして悟空も蜜を弾かせた。


 頬を撫でる柔らかい感触に、悟空はゆっくりと彼を見る、『太陽』は違わずその美しい紫暗に、悟空じぶんだけを、映していた。
「さんぞう」
「キツかった…か」
 頬を撫でる手は止まらない。悟空はそれに自分の手を重ねて、「平気…」と笑った。
 紫暗が優しく細められ、顔中に口付けの雨を降らせる。くすくすと笑いながら、逃げるように三蔵の胸に擦り寄った。
「悟空?」
「ちょっとだけ…こうして、眠っても…いい?」
 だめ?と見上げる愛し子に、「ガキ」と呟いたもののその手は小さな頭を抱き寄せ、胡桃色の髪をゆっくりと梳き始める。
 心地よさに悟空は瞼を閉じ、静かに眠りの淵を降りていく。その幼い寝顔を見て、三蔵の口元に微笑みが浮かぶ。口付けを落とし、なお深く抱き寄せると、自分も眼を閉じた。




 


  あとがき
  
 あは、ちょっと調子乗りすぎ?三蔵様ってば壊れてるし、どうも私の書くものは前置きが長いらしくて…「橘や」でもそうだからな〜。と思ってHシーンがんばってたら、こんなん出来ました。
 官能小説を目指してるわけぢゃないけど、読んでて気持ちイイ方がいいな〜って思ってると、考え込んじゃうんだな、これが…他の人はどうか分からないけど、変な体力を使う…「裏」って(考えすぎ?)
 でも、裏も表も花淋が書くのはベタ甘であることは、バッチリ保障!だって、痛いの嫌いだし、ダークも好きじゃない。別に私が書かなくても、素敵なお話載せてるサイト様はたくさん在るしね。
 さ〜て、次はなに書こうかな…

24/March 花淋拝