「猿、何をそんな真剣に、書いてんだ」
「んとね、お願い」
「願い?」
「うん、八戒が教えてくれたの、「たなばた」って言う日に、お願いすると叶うんだって」
「で、何を願ったんだ」
「あのね、三蔵とずっと一緒に居られますように。って」
「………」
「叶う?かな」
「…さあな」
叶った願い、叶える願い…
西への途中、辿り付いた町の大通りで、彼らはしばし目を奪われた。
「うわぁ〜」
「こりゃ、また」
「凄いですね」
「ふん」
異なった感想を述べながら、目は通りの両側を占める多くの笹飾りに、釘付けとなっている。
「話には聞いていましたが、これほどとは思いませんでしたね」
通りは活気が溢れ、子供は嬉しそうにはしゃぎ回っている。
年に一度のこの日を、町中で楽しむのだろう。
「二間続きの四人部屋です」
鍵を片手に戻ってきた八戒は、反対の手に数枚の短冊を持っていた。
「これ、受付でくれたんです。中庭の笹に吊るすから、何か書いてくださいって」
どうしますか。と、続いた言葉に、嬉々として手を伸ばしたのは、予想通りの少年只一人。
「じゃあ、悟空が全部書いちゃってください」
「いいの?」
「はい」
「分かった!」
満面の笑顔は、見る者を暖かくする。八戒は目を細めて、少年を見つめた。
夕食が済んで部屋へ戻ると、悟空はすぐさま短冊を持ち出して、願い事を書き始め、年上三人組は、それを横目にこの先のルートの相談を始め、一行にしては珍しく静かな夜を送っていた。
「悟空、まだ書いてるんですか?」
話し合いが終わり、お茶でも入れましょうと席を立った八戒は、今だ短冊を前にして頭を捻っている悟空を、後ろから覗き込んだ。
「うーん、たくさんありすぎて、何書いていいか分かんね」
「そんなにたくさん、あるんですか?」
そして彼の悩みを聞いた八戒は、それがとても悟空らしくて、只笑みを零すばかりだった。
「願い事は一枚に一つなんだろ、喰いたいモンたくさんあって、選べねえよ」
なあ、八戒は何が喰いたい?真剣なその問い掛けに苦笑をもらし、後ろの二人を仰げば、三蔵は新聞を広げ悟浄は大げさにお手上げのポーズをとった。
「よし!ちょっと下行ってくる」
中庭の飾りを見ながら考えると言う悟空に、八戒は遅くならないようにと、声を掛けて送り出した。
食堂の前を通りかかった悟空は、中から子供の声が聞こえ顔を覗かせた。
片隅のテーブルに子供が二人、笑いながら色とりどりの紙を広げている。
「なぁ、何してんだ」
「七夕の飾りと、お礼の短冊作ってるんだよ」
「お礼の短冊?」
興味を引かれた悟空は、そのまま子供たちの隣に座った。
「七夕は、願い事だけじゃなくて、叶った願い事のお礼も、書かないとダメなんだよ」
教えてくれた子供が書いた短冊には、「妹が出来ました。ありがとうございます」と、大きな字で記されていた。
「僕たちずっと、妹が欲しかったんだ。そしたら、お母さんが妹を生んでくれたんだよ」
嬉しそうに話す少年たちに、そっか、よかったな。と、悟空もまた笑顔を見せた。
「お礼か…よし、俺も書こう」
ペンを握り締めた。
今までの事を思い出すように、悟空は目を細めた。
改めてこれまでを振り返ってみると、本当に色々な経験をしたと思う。
三蔵によって、岩牢から解放された後は、驚きの連続だったような気がする。
あの中では分からなかった事。空気にも風にも色があった。寂しいだけでは無く、たくさんの感情を、三蔵から教わった。もちろん「好き」と言う感情も…
八戒や悟浄と出会って、悟空の世界は更に広がった。三蔵に言わせれば、余計な事まで覚えたようだが。
悟空が「七夕」を知ったのも、この二人に出会ってからだ。
悟浄が大きな笹を担いで、寺院に来た時は何事かと思ったが、八戒の話を聞いて短冊をたくさん吊るした。三蔵はすごく呆れてたけど、楽しかった。
彼らと一緒に自分が居ると言う事実は、とても幸福な事だった。
そうして、思い浮かんだ言葉は、「ありがとう」
何の変哲も無い、ありふれた言葉だけれど、悟空は頷いて、三枚の短冊を取った。
「おーおー、シアワセそうな寝顔だこと」
いつまでも戻ってこない悟空に、八戒と悟浄が下へ降りてみれば、明かりのついた食堂で、安らかな寝顔を晒す少年が居た。
「願い事は書けたんでしょうかねえ」
「んーこれじゃねえか…『四人で、西へ行く!それから、絶対に四人で、長安へ帰る』…四人で帰るか、猿らしいな」
「願い事と言うより、決意表明ですね」
それは、出会った時よりこの少年が、少しだけ大人になった証。悟空の決意は、二人の心をじんわりと、包み込んだ。
「お、まだあるぞ『悟浄へ、とりあえずありがとう』何だこれ」
赤い短冊に書かれたそれに、願い事じゃねえし、とりあえずってどう言う意味だ。と顔をしかめた。
「それはお礼の短冊ですね。ここの風習らしいですよ、願い事の短冊とお礼の短冊。これは僕の名前ですね『八戒へ、美味い飯ありがとう』ですって」
緑色の短冊を見つめ、ふわりと笑った。
「て事は、三蔵のは…」
探せば少年の腕の下。大切にしまわれた紫色の短冊。
「三蔵へ、俺を見つけてくれて、ありがとう。だそうですよ、三蔵」
声の先、入り口の影に佇むその人は、ゆっくりと現れた。
「僕たち、ここを片付けますから、悟空お願いしますね」
返事は無い、そっと壊れ物を扱うかのように、少年の身体を抱き上げ食堂を後にする。
それを見送って、八戒と悟浄は顔を見合わせた。
「ねえ悟浄、気付いてましたか?」
散らばった短冊をまとめ、そのまま中庭へ出ると悟空の書いた短冊を、笹に飾り始めた。
「何をだ?」
「今年は無いんですよ。『三蔵と、一緒に居られますように』って、短冊」
言われた悟浄も気付いて、目の前の笹飾りを見上げた。そして、
「あれだな、叶った。んじゃねえの、その願い事は」
「…そうですね」
短冊がさらさらと音を立てて、風になびいていく。夜空には無数の星が瞬いて、星の川を挟んで二つの星が一際輝いていた。
「お前、毎年同じ事書いてんのか」
「だって、俺の願い事一つだから…三蔵の、傍に居たい」
「願い事ってのはな、誰かに叶えてもらうんじゃなくて、てめえで叶えるモンなんだよ」
「……」
「だから…自分の言った事には、責任を持て」
「三蔵?」
「…傍に居ろって、言ってんだ」
「うん!」
あ…これは、三空だろうか?
私の願い事は「これからも、三空を書けますように…」
支離滅裂なので、逃亡します(汗)
第3弾は、もっと、気合入れて書きます。
花淋拝
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