73) 未来 

 一ヶ月前―――

(三蔵から、くれないかなぁ…)
 なんて、本当にチャレンジャーだった俺。
(来月は、めっちゃ我が侭聞いてもらえ)
 って、悟浄は言ったけど。我が侭なんて無理…だけど、期待しちゃう俺もいる訳で…
(はぁ〜…)
 頭ん中は三蔵で一杯。
 もう、俺ってばこんなに三蔵の事好きなんだ。
 俺が想うほど三蔵は俺の事、想ってくれてるのかな……
「ううっ…―――わーっ、ヤメヤメ」
 これ以上は恐くて考えられない。
 だって、ホントに下僕とか思われてたら立ち直れない。
「や、でもそれはちょっと…なぁ」
「うん、いくらなんでもそこまでは」
「悟浄とは付き合いが違う訳だし」
「そ、だよ…それ――」
「何、ブツブツ言ってんだ」
「うわ〜っ!さ、さ、さ…」
 いきなり声を掛けられて、ビックリして俺は後ずさって壁に張り付いた。
「さんぞ」
「一人で喧しいヤツだな」
「あう〜」
 三蔵はフンと鼻を鳴らして新聞を広げてしまう。俺は仕方ないからベッドに移動して枕を抱える、三蔵が新聞を広げたら、絶対相手なんかしてくれない。だから黙って、三蔵を見てるだけ。
(三蔵、どんな顔してんのかな―――三蔵の中に、俺はどれくらい居るのかな)
「さんぞぉ…」
「…何だ」
「……―――え?」
(俺、呼んだ?)
「あの、三蔵?」
「言いてぇ事があんなら、さっさと言え」
 三蔵が俺を見ていた。
「三蔵、あの…きょ今日、ホワイトデーだよ?」
 俺は、ドキドキしながら言ってみた。ら、
「ああ、そうだな」
(って、それだけ?)
「俺、チョコあげたじゃん。お返し、くんねぇの」
 こうなったら勢いだ。何か貰うまで―――
「やる」
「痛てっ」
 俺のおでこをヒットした固いものを摘み上げると、それは袋に入った―――キャンディ…かな?
 パッケージには女の子が指にでっかい指輪をつけて、ペロッと舌を出してる。
 開いてみると、赤くて透明な…匂いは甘いから、やっぱりキャンディだな。それがプラスチックの台に乗って、なるほど、輪になってるとこに指を入れるんだ。
「はは、ホントに指輪みてぇ」
 でも、なめると甘いイチゴ味。
「へへ、ありがとな三蔵」
 俺って単純。とか思いながらも、やっぱり三蔵から何か貰うのは嬉しい。キャンディ一個でも。
 俺はそのまま、三蔵の隣に腰掛けて甘いそれをペロリとひとなめした。
「喰い終わったら、歯、磨けよ」
「分かってる」
 返事を返して、またひとなめ。すると、三蔵が俺の手を取った。
「三蔵?」
 なんだろうと見上げた先の、真っ直ぐな紫暗とぶつかって、
「さんぞ…」
 ちょっと震えた声で呼べば、ふっとその瞳が緩んだ。
「旅が終ったら…―――本物を、買ってやる」
 そう言って、キスをしたのは俺の左手。
 本物。って、何の本物?

 俺の右手にはキャンディのついたオモチャの指輪。
 オモチャの指輪の…本物?

「どうしよう…喰っちゃった、コレ」
 困ったように告げれば。
「どうせ、偽モンだろ」
 と、三蔵が不敵に笑った。


おわっとけ


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先月の続きホワイトデー編
我が家の三蔵は、こっ恥ずかしい台詞も、難なく言ってのけるヤツです。
花淋拝

   


使用素材 : 【tricot】