69) 優先 

 焼けつくような暑さが鳴りを潜め、朝晩が過しやすくなった頃。
 秋の夜長にふさわしい静かな夜。
 パチパチと時折焚き火の火が爆ぜ、オレンジ色の灯りの中に黒い影をユラユラと写した三人が、地図とにらめっこしていた。

八戒 : どうしますか?このまま進むのは簡単ですが、少なくてもこの先十日は町の明かりを拝めませんよ
悟浄 : それだって、邪魔が入りゃどうなるか分かったモンじゃねえよな
八戒 : 僕としては長い野宿は避けたいんですけどね
悟浄 : 八戒さん、珍しく弱気?
八戒 : そういうわけじゃないんですけど、悟空がですね
悟浄 : 猿?―――あ、あ、あー、そーゆー事
八戒 : いろいろとありますからねぇ

 どうしますか?と深緑色の瞳が問うた先、仏頂面五割り増しの最高僧は、勝手にしろ。とばかりに新聞を広げた。

悟浄 : 決まったな
八戒 : じゃあ、あと二日ジープにはがんばってもらいましょう。で、この町で補給でいいですね
悟浄 : そうと決まれば寝るべ寝るべ

 胡坐を解いて大きく伸びをする悟浄の隣で、八戒も肩を回す。と、

悟空 : 話、終わった?
八戒 : ああ、悟空。終わりましたよ、退屈だったでしょ
悟空 : ヘーキ、ジープと遊んでたから

 そう言って笑う悟空の肩から、ジープが八戒の元へ飛び移る。

八戒 : ジープ明日もがんばってくださいね
ジープ : きゅっ!

 八戒は微笑んで小さな頭を撫でた。

悟空 : じゃ、お休み八戒
八戒 : おやすみなさい、悟空

 ふわりと笑った八戒の顔が次の瞬間、そのままの表情で固まった。
 視線の先、煙草を吸うために移動しようと立ち上がった三蔵に抱きつく悟空。音で現すなら、正に「ピトッ」である。
 これにはさすがの三蔵も硬直。しばしの沈黙の後、

三蔵 : 離れろっ!バカ猿が!!

 渾身のハリセンが静寂を切り裂いた。はずなのだが…

三蔵 : おい
八戒 : 悟空?

 抱きついた悟空は、そのままズルズルと沈んでいく。

八戒 : 悟空!
悟浄 : おい、悟空どうした
三蔵 : ……寝て、やがる
八戒 : え?
悟浄 : は?

 頭に受けた衝撃など何処吹く風の体で、悟空は幸せそうな寝顔を浮かべていた。

悟浄 : 何だよ猿の奴、よっぽど眠かったのか
八戒 : …寂しかったんじゃないですか
悟浄 : あぁ、なーる――こりゃ、長い野宿は無理だわな
八戒 : でしょ

 苦虫を噛み潰し、けれどその腕にはしっかりと養い子を抱きしめた最高僧の姿に、二人は声を潜めて笑い合った。


おわっとけ


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長い野宿と悟空の我慢の関係は
ss「痛みを力に変えること」をご参照
花淋拝

   


使用素材 : 【Canary】