62) 我慢 

 宿の一室。
 新聞を広げた飼い主と、忠犬よろしくなそのペット。
 もう一人の仲間は、のんびりと茶をすすっている。
「なぁ、アレ何?」
「我慢ですよ」

 お願いです、解るように説明してください。
 さかのぼる事、数十分前。

『なあ、三蔵ぉ〜遊ぼうよぉぉ。外行こうよ、なあなあ』
『るせえな、行きたきゃてめえ一人で行って来い』
『やぁあだ〜三蔵も一緒ぉ』
『幾つのガキだ(怒)』
『ガキじゃねえモン』
『なら、少しは大人しくしてやがれ!ま、ムリだろうがな』
『そんな事ねえモン』
『ほう、出来るモンならやってみろ』
『おうっ!』

「で、ああな訳?」
「そうです」

 椅子に逆さに座り背もたれを抱きしめ、三蔵から視線を外さない小猿。
 だが当の三蔵は、明らかにこの状況を楽しんでいる。それを証拠に、さっきから新聞を捲る手がほとんど動いていない。紙面に隠れた奴のニヤけ面が、ありありと想像できる。
「健気っちゅうか…バカっちゅうか…」
 コメントのしようがねえよ。
「まあ、一種の愛情確認なんじゃないんですか」
 ホラ、三蔵って照れ屋ですから。
 相方の意見は呆れるほど冷静だが、その眼が笑ってない事に気づかないほど、浅い付き合いじゃねえんだよな、俺も。
「アホくさ」
 ポツリと呟いて、煙草を咥えた。と、

 バサリ。
 サイドテーブルに新聞が乱暴に投げられ、無愛想な顔が現れる。
「三蔵、読み終わったのか?」
「ああ…」
 見えない尻尾をブンブンふった小猿が飛びつく。
 奴の胸元に鼻っ面押し付けて懐く様は、やっぱりペットそのものだ。
「遊んでやるよ、約束だからな」
 見え透いた台詞と、勝ち誇ったその顔。その紫暗がチラリと俺たちを視界に捕らえた。
 なんだ、まだ居たのか。
「やってられっか」
 立ち上がった俺に続いた八戒が、二人に声を掛ける。聞いちゃいねえがな。

 苦笑いのまま廊下に出ると、八戒が俺の腕を引いた。
「精神的苦痛を解消しませんか?」
「あ?」
 言ってる意味が解らないと顔に出せば、八戒の奴は自分の左胸をポンポンと叩いて、その口元を僅かにあげた。
 透視能力なんてある訳がないが、その時の俺には、ポケットの中の四角いカードがはっきりと見えて、
「お付き合いさせていただきますよ」
 二人並んで、宿を抜け出した。


おわっとけ


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浮ぶのは、バカップルとブラックな策士に、貧乏クジを引いてばかりのお兄さん。。。
一服の清涼剤になっているだろうか…
花淋拝

   


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