53) 横顔 

 三蔵の瞳は、いつも真っ直ぐに前を見据える――――

 自分の進むべく路を、ずっとずっと先まで見て…
 俺は、そんな三蔵の背中をただ必死に、置いていかれないように追いかけるだけ。
 時々、三蔵は立ち止まって、本当に稀に俺を隣に立たせてくれる。でも、その瞳に俺は映っていなくて、やっぱり前を見てるんだ。
 その横顔を見ていると、俺はとても不安になる。
 三蔵の横顔は、そのまま彼の心情を表しているようで…
 際限まで張り詰めた弦の様に、触れる事を許さない厳しさで、じっと前を見る。
 それがいつか些細な振動で、ぷつりと切れてしまったら。

 三蔵はどうなってしまう?
 俺はどうすればいい?

「何だ…」
 無意識に彼の法衣を摘んだ俺。
 三蔵は静かに何だと問うた。
 俺はただ首を横に振るばかりで、掴んだ法衣を離す事もしないで、俯いて眼をギュッと瞑って。
「用がないなら、離せ」
「やだ…」
 搾り出すような俺の拒否の言葉に、三蔵は何を感じたのだろう。
 頭の上でため息が聞こえた。それから、三蔵の手が俺の頭をゆっくりと引き寄せる。
 おでこが三蔵の肩に乗って、その手は俺の髪を梳いていく。鼻の奥がツンと熱くなった。それでも口唇を噛み締めて、声を出さないようにしていると、三蔵は全部解ってるんだとばかりに、小さく頭を小突いた。
 
 不思議だ――――
 波立っていた気持ちが、どんどん落ち着いて。強張っていた身体の力が抜ける。
「落ち着いたか」
 囁かれた声に、ん、と小さく頷いて顔を上げた。
 俺を見つめている三蔵の瞳が、笑みを湛えている。
「行くぞ」
 動いた視線の先、真っ直ぐ前を見て、三蔵は歩き出した。
「うん!」
 俺はその背中に着いて行く。



「時々、悟空って凄いと思います」
「あ?」
「三蔵の周りの、あんなに張り詰めていた空気が、あっという間に消えるんですよ」
「ああ、アイツが傍に居るだけで、三蔵のピリピリしたムードがぶっ飛んじまうよな」
「専属の精神安定剤ってとこですかね」
「違いねえ」


「八っ戒ぃ〜悟浄ぉーっ!!早く来いよーっ!」
「はいはい」
「へーへー」
「何て言うか、アレですね――持ちつ持たれつ」
「だな」
「悟空って、三蔵の心のパロメーターなんですね」
「愛だねえ〜」
「愛ですねえ」


おわっとけ


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お互いの心情が伝わって、無意識に緩和し合う仲。。。
理想です…
花淋拝

   


使用素材 : 【妙の宴】