52) 雨夜 

 真夜中に袖を引かれて、三蔵は薄目を開いた。先に見えるのは、夜目にも明るい金瞳。それが不安げに揺れていた。

「さ、さんぞ…」
 己を呼ぶ震える声。だがそれを掻き消すような、窓を叩く強い雨脚と轟き。
 上掛けを持ち上げ、腕を引いてやる。
「ほら」
「ん…」
 縋りつくその身体は、その手は震えていた。
 落ち着かせるように、三蔵の大きな手が悟空の背を撫でる。

 時々――――
 悟空を呑み込もうとする、五百年の孤独。
『雷がいっぱい鳴って、雨がどんどん岩牢ん中に入ってくるんだ…俺を沈めようとするみたいに』
 何時だったか漏らした言葉。
 強すぎる雨音が全ての音を消して突きつけるのは、悟空が唯一恐れる、

 一人ぼっち――――

 冷たくなった指先が、夜着の襟元を握り締める。
「ごめん…さ、い―――さんぞ、ごめ……な…い」
「悟空…」
 謝罪を繰り返す養い子の肩が震えだす。三蔵は嘆息して、
「嵐のたびにここへ潜り込んでくるお前を、俺が怒ったり、拒んだりした事があったか?」
 見つめる紫暗も囁く声も、常よりもずっと穏やかで柔らかい。悟空はただ首を横へ振った。
「謝る必要など無い。ごめんなさい。は、二度と言うな」
 驚きに開かれた金瞳が、見る間に潤みだし幾筋もの銀糸を生んだ。
「泣くな…」
「ふぇ…だ、って――――さん、ぞぉ…ごめ…―――ありが、と…三蔵」
 頬を伝う涙は止まらず、けれど悟空の口元がやっと笑みを形作る。
「それでいい」
 三蔵は指先でそっと、その涙を拭った。
 深茶の頭を抱え込み、雨音から愛し子を遠ざける。胸元に感じる呼吸がすっと穏やかになると、いくらもしないうちに安らかな寝息が聞こえ始めた。
 寝顔がいつもと変わらない事を確かめ、柔らかい髪に口付けると、三蔵もまた静かに瞳を閉じた。


おわっとけ


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いやいや、昨夜の嵐は凄かったです。
雨と雷…
私はどっちかと言うと、雷が光るとコーフンする方です(爆)
花淋拝

   


使用素材 : 【トリスの市場】