44) 言霊 

 今頃は拾った事を後悔しておいでだ――――

 もう何度も言われ続けて…でもその度に、自分の頭に置かれた大きな手に、心を救われた。
 
 自分の事は自分で決めろ――――
 
 それが彼の精一杯の優しさ。
 だから、それに応えよう…ただその想いだけが、少年を強くした。


 真夜中に目が覚めた。
 ぼんやりと開いた視線の先は、薄闇の中。それでも徐々に視界が開けて、悟空はゆっくりと身を起こした。
「さむ…」
 裸足のままベッドを降り、窓を押し開くと澄んだ月明かり。透明な冷気が足裏から、晒された素肌から急速に熱を奪っていくが、その場から動く気にはなれなかった。
 何故今になって、その言葉を思い出したんだろう。疼くような痛みを伴う、辛辣な言葉の数々は、けして少年の心から消える事は無いようだ。
「さん…」
 言いかけて、頭(かぶり)を振った。
 呼んではいけない。これは、自分の問題だから、縋っては…頼ってはいけない。
 
 あの日。
 白い顔で横たわる大切な人の寝顔を見ながら、自分の心に誓いを立てた。

 強くなる――――

 それでも、この胸の痛みは時折、少年の心を悪戯に揺さぶる。
 無意識に掴んだ胸元。白くなる指先と、微かに震える肩は、それが寒さの所為ばかりでは無い事を、無言でその人に伝えていた。
 知らぬ間に背後にたった人影が、ゆっくりと腕を伸ばす。
「バカだと解ってはいたが、ここまでとはな」
 抱(いだ)いた身体は、氷のように冷たい。
「…反則だ…気配消して近付くなんて」
 悟空はそう、口にするのが精一杯だった。
「てめえが、ドンくさいだけだ」
 苦く笑うしかなかった。
 結局、この人には隠し事など出来ないのだ。
「俺が…呼んだ、んだよね」
 返事の変わりに、回された腕に力が篭った。
「大丈夫だよ」
「…そう言える、根拠はなんだ」
 三蔵の問い掛けに、少しの間があって、
「この腕があるから」
 触れたのは、普段の三蔵よりも冷たい指。
「冷てえな…」
 今度こそ、悟空はくすりと笑みを零した。
「さんぞーが…あっためてくれる?」
「誘ってんのか」
 微かな沈黙の後、
「…そーかも」
 囁くほどの声。そして、ふわりと身体が浮き上がった。


「さん、ぞ……も、ダメ…」
「悟空…」
 目の前が真っ白にスパークする。
 自分を組み敷くその人が、微かに笑ったのを見て、ゆっくりと意識が落ちていく。その時、
 
 俺だけを見て、俺の言葉だけを信じろ――――

 それに応える様に悟空の顔に浮かんだ微笑みを、三蔵だけが見つめていた。



おわっとけ





多くは言わなくても、お互いに通じ合ってる関係っていいなぁ〜
(原作の)二人を見てると、そう思います
花淋拝

   


使用素材 : 【トリスの市場】