36) 恋文 

 それを見つけたのは本当に偶然で、咄嗟に隠れたのは気まぐれだった。

 キョロキョロと辺りを伺う小猿一匹。
「挙動不審…」
 大樹の前で少し屈んだ格好のまま、何かゴソゴソと。それからまた、辺りを伺って、今度は一目散にその場を後にした。
「何やってんだ」
 俺は完全に悟空の気配が消えたのを確認して、ヤツが居た大樹へ近づき、それを探した。
「っと、コレか」
 根元近く、幹に出来たコブが割れた小さな穴。そこにあったのは小さな木箱だった。
 手にとって周囲に人気が無いのを確かめてゆっくりとフタを開ける。
「なんだ?手紙…と、木の実」
 俺の記憶が正しければその実は「桑の実」。一緒に入っていた手紙を開けば、お世辞にも上手いとはいえない、ひらがなばかりの文面。
    
さんぞう おしごとおつかれさま
もりでおいしいきのみをみつけたよ
すこしだけ もらつてきたから さんぞうにあげる
さんぞうにいわれたとーり ありがともいつたよ たべてね
ごくう

「15歳の文章じゃねえ」
 呆れていれば微かに人の気配が近づいてくる。慌てて箱を元の場所へ戻すと、俺は離れた場所に身を隠した。
 潜んで様子を伺っていれば、現れたのは、
「三蔵じゃねえか」
 いつもの如く最高僧様は不機嫌な顔のまま、けれどあの大樹の前で足を止めると、少し屈んで取り出したのは、あの木箱だった。
「おいおい、小猿ちゃんに付き合ってるのかよ」
 これは美味しいネタを手に入れた。
 そのはずだった。

 木箱を抱え手紙を読む三蔵の表情に、俺が感じたのは「驚愕」以外の何物でもなかった。
「あんな顔、すんのかよ」
 それは、普段の奴からは想像も出来ないほど、柔和で慈愛に満ちた面差し。
 そいつは人々を導く、神に近しい存在。だと、誰かが言っていた。
 だけど分かっちまった。
 奴が導くのは…その全てを注ぐのは、たった一人の少年だけだ。

 見てはいけない、知ってはいけない事だったのかもしれない。
 俺は、三蔵が立ち去っても、暫くは動けず、やっと自分を取り戻した時、この事で奴を揶揄ってやろうという思いは、完全に消えていた。


 数日後、八戒の前で三蔵に貰ったという新しい結い紐を、嬉しそうに見せている小猿を、俺はなんとも複雑な思いで眺めていた。


おわっとけ





5月23日は「ラブレターの日」らしいです
でも、間に合わなかった(T_T)
花淋拝

   


使用素材 : clip【Silverry moon light】