34) 背中 

 久しぶりに三蔵と、留守番。
『いつもいつも悟空が荷物を持ってくれるんです。たまには貴方も働いてください』
 って言って、八戒は今日の買い物に、悟浄の耳を引っ張って出掛けた。
 いいの?って聞いた俺に、
『ずっと野宿続きだったでしょう。三蔵に甘えてくださいね』
 そう言って、八戒は笑った。
 どうしよう、凄く嬉しい。

 三蔵はベッドに腰掛けて新聞を広げてる。
 法衣の上だけを下げて、眼鏡をかけて活字を追う。時折煙草をふかして。俺は何にもする事が無いけど、三蔵を見ているのは大好き。
「なんだ」
 じっと見てると、新聞から顔を上げないけれど、声を掛けてくれる。
「ううん、何でもない。ごめんな邪魔して」
「別に…」
 そして三蔵は新聞を一枚めくった。


「おい」
「ん…」
 少しだけ低い声なのは、俺が三蔵の背中にぴったりと張り付いたから。
 男にしては細いと思うけど、三蔵のそれは余分な肉がついてない締まった身体だという証拠。だって、俺のこと簡単に抱え上げるもん。
 アンダーシャツを通して伝わる三蔵の温もり。
「さんぞーあったかい」
 三蔵は呆れたみたいに大きなため息を吐いたけど、退けとも言わずに俺のしたい様にさせてくれた。
「三蔵の背中…好き…安心する」
 俺は後ろから腕を回して、頬をくっつけて抱きついた。
 三蔵は新聞を脇へ置くと、俺の手に自分のそれを重ねて、
「やけに甘えるな」
「うん、今日は甘えんぼになるって決めた」
 俺の答えに、笑う気配がした。
 それから俺たちは黙って、そのカッコのまま、ただじっと微かに聞こえる互いの息遣いだけを感じていた。

「悟空」
「なに」
「前来い」
 言われるままに背中を離れて、三蔵の前に来ると、ついと腕を引かれヒザの上に横抱き。
 頭を抱かれ優しい指先が、ゆっくりと俺の髪を梳いてくれる。
「さんぞ…」
 返事の代わりに、指の動きが止まる。
「三蔵の背中大好きだけど、こっちのがもっと、いっぱい好き」
 仄苦いマルボロの香りがする胸に擦り寄った。
「そうか…」
 三蔵の指がまた動き出す。耳の横から頬を包まれて、上を向かされる。瞳が合って、普段よりもずっと、ずっと優しい紫暗。にこりと笑って、俺は瞳を閉じた。
 
 貴方の背中も、腕の中も、俺だけの特等席。



おわっとけ





べらぼうに甘える悟空が突然書きたくなっただけ…
花淋拝

   


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