ずっと、ずっと…



 暦のイベントは、乱痴気騒ぎの口実。

 カレンダーは最後の月。日めくりは残りがあと7枚。
 テーブルに転がった、無数の酒瓶の隅で、赤い帽子のサンタとトナカイが笑ってる。

 微かな水音にゆっくりと意識が浮上する。ゆるゆると瞼をこじ開けて、しかし悟空はぼんやりと、オレンジ色の世界を漂っていた。
 暫くして忍ぶ様な足音が近付いて、覗き込んだその瞳は、普段よりも濃い紫を湛えていた。
「起きたのか」
 耳を震わすテノールに、漸く悟空の金瞳に冴えた色が加わった。
「さんぞ…おれ、寝てた」
 残っている最後の記憶は、みんなの笑顔と何度目かの乾杯の声。
「はしゃぎすぎだ」
 声音に苦言めいた響きは無い。それでも悟空は小さく、ごめん。と、呟いた。
「でも、楽しかったすごく…」
 ナイトランプのオレンジに浮かぶ悟空のその顔は、いつに無く嬉しそうで、三蔵は彼の寝るベッドの端に腰掛けると、ふわりと胡桃色の頭に手を置いた。
 ゆっくりと髪を梳いてくれるその心地よさに、とろりと金瞳が揺れた。
「旅に出る前は、クリスマスってあんまり、好きじゃなかったから…」
 その意外な悟空の告白に、三蔵は微かに目を開いた。
「クリスマスって言うかさ、この時期、三蔵忙しくって、なかなか一緒に居らんなかったから…」
 言われるままに三蔵は記憶を辿った。確かに寺院に居た頃、今の時期、異教の生誕を祝う事など無かったが、かわりに年越しと新年の祈祷の準備に忙しく、三蔵が悟空と暮す私室へ戻ってくるのは、いつも深夜だった。
「八戒と悟浄がクリスマス教えてくれて、ケーキとかプレゼントとか貰ったけど…やっぱり、寂しかったんだぞ…」
 そう言って、布団を鼻の上まで上げると、悟空は三蔵を見上げた。当の三蔵はというと、内心かなりの驚きを感じていた。
 だが、いつだったか八戒に言われた事を思い出した。
『一時間でいいですから、悟空と一緒に、居てあげられませんか?』
 あれは、そう言う事だったのか。
 どんなに美味しい料理を食べて、たくさんのプレゼントを貰っても、そこに三蔵が居ないという事実が、悟空にはとっては全てだった。
 そして、一緒に居たいという我が侭を押し隠して、悟空は笑っていたのだ。

 ったく、変なとこばっかり、気ぃ使いやがって…

 だが、そんな健気な悟空が、愛しいと思うのも事実だ。
「俺が居たって、プレゼントも何も無いぞ」
 想いとは裏腹に甘い言葉など言えるはずも無く、三蔵はいつものぶっきらぼうな口調で告げた。
「いいよ…」
 そんな彼の本音を感じ取っているのか、悟空は笑って三蔵の法衣を握り締めた。
 結局三蔵はそれ以上何も言えず、再び悟空の髪をゆっくりと梳き始め、悟空はくすりと笑って目を閉じた。
「ね、さんぞ…プレゼントいらない、から…ずっと、一緒……いて、ね…」
「悟空?」
 知らず顔が綻んだ。自分の法衣を握り締め、本当に安らかで満ち足りた寝顔。
 頭にあった手を動かし、まろやかな頬をそっと撫でてやると、花の様に微笑んだ。
 起こさないように握った指を解くと、布団に冷気が入り込まないように、悟空の横へ滑り込む。
 抱き寄せれば、襟元が引かれそこに顔を埋めた悟空の身体は、三蔵の身も心も温かくする。
「離せねえ、な…」
 一人呟き、悟空の目元に口付けを一つ落として、三蔵も目を閉じた。

 プレゼントはやらねえが…ずっと一緒に、居てやるよ――


(C)karing/Reincarnation2004